内容説明
彼は空への憧れを決して忘れなかった―長篇『華竜の宮』の世界の片隅で夢を叶えようとした少年の信念と勇気を描く表題作ほか、人の心の動きを装置で可視化する「マグネフィオ」、海洋無人探査機にまつわる逸話を語る「ナイト・ブルーの記録」、18世紀ロンドンにて航海用時計の開発に挑むジョン・ハリソンの周囲に起きた不思議を描く書き下ろし中篇「幻のクロノメーター」など、人間と技術の関係を問い直す傑作SF4篇。
著者等紹介
上田早夕里[ウエダサユリ]
兵庫県生まれ。『火星ダーク・バラード』で第4回小松左京賞を受賞し、同作でデビュー。2010年に刊行した長篇『華竜の宮』(ハヤカワSFシリーズJコレクション)は、雄大なスケールの黙示録的海洋SF巨篇として書評家、読者から支持され、「ベストSF2010国内篇」にて他を圧倒して第1位を獲得した(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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乱読太郎の積んでる本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
347
4篇からなる作品集。巻頭の表題作「リリエンタールの末裔」(いいタイトルだ。実はこれに魅かれて購入した)は、長編『華竜の宮』(私は未読)と同じ世界を背景にしたものであるらしい。そのせいか、未完であるかのような感が残る。続く「マグネフィオ」は、菜月の和也に対する態度に違和感が残る上に、二人で行ったイタリア料理店のメイン・ディッシュがパエリアというのは、いくらなんでも変だ。こうなると、この人の技術的な蘊蓄もなんだか怪しく見えてしまう。「ナイト・ブルーの記録」は、著者得意の海洋ものらしいが、これも私には⇒2024/08/19
射手座の天使あきちゃん
193
【この本のレシピ】 理系の基礎知識と歴史的事実をベースに希望とファンタジー菌をよく混ぜた生地をじっくり寝かせます。 味の決め手に、ごく少量の悲哀や絶望を書きあげる直前に加えましょう。 お召し上がり時に、お好みで科学技術の将来への強い思いを振りかけても美味しくお召し上がり頂けます(笑) 「幻のクロノメーター」風味絶佳でした!! (^_^)v2013/12/21
文庫フリーク@灯れ松明の火
167
稀に見る壮大なSF巨編『華竜の宮』の世界の一角で、空を飛ぶことに情熱を傾けるチャム。『華竜の宮』既読者には嬉しい立ち上がり。オットー・リリエンタールのグライダーを検索し「マグネフィオ」では現代磁性流体アートに目を奪われる。そして最も印象的な「幻のクロノメーター」ハリソン製作のH‐1は失礼ながら、とても時計に見えない。現実に存在するリアルを素材に取り込み、物語を紡ぐ上田さん。参考文献・取材・下調べと、どれ程の時間を費やされているのだろう。そして描かれるのは、他人など無関係に自分だけの幸せを求めて止まない→2013/10/03
みっちゃん
117
作り続ける存在である人類。そして出現する「変容」標題作の主人公の一族の設定にまたもや驚かされました。【華竜の宮】でも散々驚いたのに、まだあったんですね。チャムとバタシュの研鑽は【華竜〜】の人類の最後の決断に寄与していると信じて疑いません。そして【ナイト・ブルー〜】の霧嶋の経験と「ヒト機械同化症候群」の研究は、あの魅力的なアシスタント知性体の開発に繋がっているのでは?と勘繰ってしまいました。次は解説にもあった【完全なる脳髄】も読んでみたいです。2013/08/28
藤月はな(灯れ松明の火)
112
社会に影響を及ぼす科学技術の融合は人の心の機微に影響を与えうるかを作品に真摯に問いかける上田さんの力強さが感じられます。『ナイトブルーの記憶』は攻殻機動隊や『ニューロマンサー』のガジェットを使いながらも人間離れしていく人に感じる隔たりや寂しさに胸が締めつけれられます。それでもその記憶はとても美しいと私は思います。特に『クロノメーター』は人々の幸福の技術とされた科学技術が戦争では人々を殺戮したことも描いた『チボー家の人々』を読んだばかりなので彼女の問いかけがほろ苦くもその中でも生きている希望に息が付けました2015/10/25