1 ~ 1件/全1件
- 評価
乱読太郎の積んでる本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
51
SFマガジンでのディック投票会の影響と早川文庫100冊フェアのおかげで手に入り辛かった大好きな『火星のタイム・スリップ』が新装版で購入できるようになりました^^マンフレッドやジャックの分烈症であるが故に世界の悪意を人一倍、感じ取れるようになり、心を護るために自閉する姿はやはり、再読しても胸が詰まります。もし、彼らが認識している「世界」を自分も「認識」できるようになったらその「世界」は「偽物」だと判断できるのだろうか?現実の方が隠れている分、醜くて恐ろしいことはアーニイによって証明された。考えるのはこれから2014/09/20
藤月はな(灯れ松明の火)
43
限られた水の支給で汲々としている火星への植民地民。一方、水を独占していたアーニイは国連から火星の利権を取り戻し、権威を拡大するために時間を改竄できる少年、マンフレッドを利用しようと目論むが・・・。傲慢なアーニイは自業自得ですが、全てを見通してしまうがために心を閉ざしたマンフレッドが痛々しい。そして自分を分裂症と感じているシルビアなどが勝手な理由で不倫などを行っていく様は目も当てられません。それにしても「ガブル、ガブル」の響きと今の長寿社会の側面を抉り出したラストが頭を離れない・・・。2014/02/06
催涙雨
34
ひどくB級臭いというか何かそういうものを想起させるタイトルだが実際のところエンタメ的な面白さは薄く、特有の哲学や文学性のほうが色濃く出ている。タイムスリップの意味合いも一般的にイメージするものとは少し異なる。ディックの作品を読んでいると例えば今生きている現実は確かなものか、自分の記憶は真実なのか、昨日と今日の自分は同じものなのか…など考えだしたらきりがないのだが、ある種病的な疑念がふつふつと湧き出る。この作品はそのものずばり自閉症、分裂症など精神病に類する者のもつ世界がひとつのテーマになっている。罹患者と2018/06/21
しゅう
33
この小説では分裂病という病気が再々登場する。主要登場人物のジャックやマンフレッドも分裂病患者である。分裂病患者は特殊な時間感覚を持っていて予知やタイムスリップができるという。そこに目をつけた火星植民地の親玉、アーニイは失った利権を取り戻すべく、過去へと立ち返るのだが……。時間軸の位相が現実社会を侵食していく描写は不気味だし不穏だ。ジャック夫妻の愛のゆくえや火星原住民と行動をともにするマンフレッドにも興味津々だ。いつもながらディックの小説は哲学的で奥が深いと感じさせられた。2025/02/02
Kepeta
26
分裂症を時間感覚の体質異常と捉える世界観が物語にきちんと噛み合っていて面白い。登場人物の誰もがそれぞれの人生の問題を抱えつつ、クライマックスや解決には向かわないもののメタ視点でそれでいいのだ的な穏やかな着地となる構成は「高い城の男」を思わせる。アーニーがマンフレッド界を通して体感する分裂症主観の描写がやけに真に迫っており、中盤の時間軸の乱れ含めてバロウズみたいなカットアップ感もあってどこかドラッギーな雰囲気が漂う。SFの態をとったディックの私小説的な趣も感じました。2023/02/06
-
- 和書
- 国語の授業 NO.73