内容説明
他者とうまくコミュニケーションできない自閉症当事者は、本当に「かわいそうな存在」なのか?仮想世界でDJとして活躍するアメリカ人男性、マンガを描くことで自己理解を深める日本人女性など、世界の「見え方・感じ方」が異なる四人の自閉症当事者を訪ね、「症状」という視点からは理解できない、驚きの知性を明らかにする。ニューヨーク在住の社会学者による、瞠目の書!
目次
第1章 仮想世界で輝く才能―ラレさんの場合1
第2章 創造性の秘密をさぐる―ラレさんの場合2
第3章 自閉症こそが私の個性―コラさんの場合
第4章 マンガを描くことで深める自己理解―葉山爽子さんの場合
第5章 「うわわオバケ」が開いた世界―高橋紗都さんの場合
第6章 インテリジェンスの多様性を求めて
著者等紹介
池上英子[イケガミエイコ]
ニュー・スクール大学大学院社会学部Walter A.Eberstadt記念講座教授。プリンストン高等研究所研究員。専門は歴史社会学、ネットワーク論。ニューヨーク在住。お茶の水女子大学国文学科卒業。日本経済新聞社勤務を経て、筑波大学大学院地域研究科修士課程を修了、ハーバード大学社会学部博士課程へと進む。Ph.D.。イェール大学社会学部准教授を経て、現職(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
踊る猫
34
私なら私は、私が感じる感覚の「外」を想像する他ない。だがクオリアをめぐる議論が語るように、「外」に属する知覚の有り様を備えた他者は確実に存在する(平たく言えば「私と違う」知覚の持ち主が居るということは世界の広さを教えてくれる)。この本を再読し、改めてこのようにバラバラに違ってしまう世界認識がいかにして生まれうるのかについて考えさせられる。それは定型発達/NTの眼からすれば異常かもしれない。しかし、そうした異常さにも開かれることがニューロダイバーシティの概念の要ではないか。本書はそんな要を平たく教えてくれる2023/05/10
きみたけ
33
著者はニューヨーク在住の社会学者の池上英子氏。他者と上手くコミュニケーションがとれない自閉症当事者は、本当に「かわいそうな存在」なのか。 仮想世界でDJとして活躍するアメリカ人男性、マンガを描くことで自己理解を深める日本人女性など、世界の「見え方・感じ方」が異なる4人の自閉症当事者を訪ね「症状」という視点からは理解できない驚きの知性を明らかにしています。かの宮沢賢治も自閉的知性を持つ人に特有の世界観、独特の感覚知覚の世界が創作の秘密にあったと言います。これまでの見方・考え方を改めさせられる一冊でした。2021/03/27
踊る猫
32
私自身のことを話すと、1人の自閉症当事者である。がゆえに、これは自分のことを書かれているように「も」読んだ。が、この本を単に「自閉症を書いた本」と読むとちょっともったいない。「ニューロダイバーシティ」という言葉は「個人個人の脳の相違こそが世界の多様性を育む」というポジティブかつクリエイティブな可能性に向けてこそ開かれており、イヤな言い方をするが定型発達者が読んでも学べるところは多いにあるはずだ。私たちの脳は違っていて当たり前である。だが、メディアは一面的な世界の捉え方を扱う。それが見えなくさせるものがある2022/12/14
踊る猫
31
三者三様の自閉症あるいは発達障害が語られ、彼らが持つ「知性」が語られる。彼らの持つ知性を語る言葉はそのままいたずらに発達障害者の天才性を称揚するだけで終わらず、定型発達者の持つマジョリティとしての感性への異論/カウンターとしても指摘されている。だが、発達障害者と定型発達者の間に溝を無闇に作ることなくこの世界のあり方に一石を投じるスタンスは良識的で、この著者の知性としなやかさを感じさせる。良識的であるがゆえに地味な本なのだけれど、それでもこうした本がリリースされることは発達障害を考える上で試金石となるだろう2022/05/04
tom
28
自閉症者が見ている世界の独特さには、注目すべき理由があると書いた本。著者の主張に、なるほどと思った。でも、それを取りあえず置いといて、私が魅了されたのは、「うわわオバケ」さんの世界。彼女は、ギターを弾く人。自分が見る音の世界について「楽器の音の色が虹のようにかかって、まるで一本の橋のようになっていて、その色のうえをドレミの音符ごとの色が踊っている。ギターの色はベージュだから、ベージュ色の橋の上をドレミの音色が踊っている。曲の色がつくと、ベージュの橋は二色の虹のような橋になる」と語る。2023/06/10