出版社内容情報
中央公論新社[チュウオウコウロンシンシャ]
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内容説明
日本近代文学において作家たちは、「男性間の愛と絆」をどのように描いてきたのか―国木田独歩の少年物から山本周五郎の時代小説まで、一九〇二~四九年に発表された幅広いジャンルの短篇小説十五篇を精選。現在のBL文化に至る想像力と表象の豊かな源流を辿る文庫オリジナルアンソロジー。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
46
表題作は隷属と主従が移り変わり、対等性が重要視されるSMだと該当したくない。寧ろ、「気になる子を苛めて泣かすがきんちょ」、「ツンデレ=モラハラと勘違いした馬鹿」という愚かさの極みに冷えた眼差ししか贈れないわ。個人的に偽造原稿売り込み事件で文学界から追放された倉田啓明氏の「若衆歌舞伎」の後にその倉田氏をモデルにした山崎俊夫氏の「執念」は配した編纂者の構成に唸るしかなかった。まるで詐欺師であり、愛すべき暴君・破滅主義者でもあった村田鶏鳴=倉田啓明への信仰めいた透徹さは執着にしては異質故に惹きつけずにいられない2023/02/23
RIN
24
明治から昭和にかけて執筆された作品群は第一章に男色や少年愛、第二章に友愛と分けられているのだが、全編通して現代で一般的に認識されているBLとは程遠く、特に第一章では男性の加虐性と被虐性を露骨に感じさせる作品が多かった。相手が同性である事の侮りや女性の代用品的な見方もあり、この本を読んで萌えるのは中々難しい。ただ室生犀星の文は流石に美しく、山本周五郎には時代の切なさがあった。唯一の女性作家・岡本かの子には現代BLの片鱗が見え、太宰はイキった二次創作みたい。この本で一番BLしてるのは間違いなく表紙だと思う。2022/11/14
くさてる
21
日本近代文学における「男性間の愛と絆」の短篇アンソロジー。正直言って時代の限界や古さを感じるものもあり、そこまでとは思わなかったけれど、既読の太宰治「駆け込み訴え」の素晴らしさで持ち直し、なによりも初読だった山本周五郎「泥棒と若殿」にやられてしまった。多くの人に支持された大衆作家の実力は時代を越えると思いました。この一作だけでも読む価値ありました。2023/02/22
❁Lei❁
21
現代BLの「萌え」とは異なる、耽美的な世界が広がっていました。室生犀星や国木田独歩、太宰治など著名な文豪たちが勢揃いしています。近世の小姓や近代の学生の物語などから、当時の男色事情を窺えて面白かったです。男色も女色もアリな時代背景や、江戸時代とは違った近代小説の内面描写などについての解説も勉強になりました。お気に入りは独歩の「画の悲み」。2022/12/17
せの
11
若衆歌舞伎のあとに執念を持ってくる妙さ、編者は巧みだなと思う。一編の小説の枠外にもBLがある!『ある神主の話』と『泥棒と若殿』がほのぼの男夫婦みたいでかわいいのだが、後者の方は哀切もあって味わい深い。無意識の欲望がサディズムめいて発露している登場人物たちが多い中で、『小松林』はわりと欲に自覚的で、また三角関係の人間ドラマが面白かった…。60を過ぎた漁師の男とそれより30も若い妻、それとおそらくまだ20代の軍人の男。誰に欲情しているのか、誰に嫉妬しているのか、ラストの妙な寂しさ含めて好きだった。2023/07/07