内容説明
徹底した史料博捜と批判精神、史実にのみ忠実であろうとする厳しい姿勢…。『レイテ戦記』の作者が切り拓いた歴史小説の新境地。「吉村虎太郎」「姉小路暗殺」ほか長篇『天誅組』へと連なる佳篇、「高杉晋作」「竜馬殺し」など幕末維新期を舞台にした作品群、さらに「将門記」「渡辺崋山」まで網羅した短篇集。
著者等紹介
大岡昇平[オオオカショウヘイ]
明治42年(1909)東京牛込に生まれる。成城高校を経て京大文学部仏文科に入学。成城時代、東大生の小林秀雄にフランス語の個人指導を受け、中原中也、河上徹太郎らを知る。昭和7年京大卒業後、スタンダールの翻訳、文芸批評を試みる。昭和19年3月召集の後、フィリピン、ミンドロ島に派遣され、20年1月米軍の俘虜となり、12月復員。昭和23年『俘虜記』を「文学界」に発表。以後『野火』(読売文学賞)『花影』(新潮社文学賞)『中原中也』(野間文芸賞)『事件』(日本推理作家協会賞)等を発表、この間、昭和47年『レイテ戦記』により毎日芸術賞を受賞した。昭和63年(1988)死去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
月をみるもの
17
井上靖との論争は、正直因縁ふっかけてるようにしかみえないし 、この本に収められている作品群を「小説」と呼ぶこともありえない(川村湊の解説は完全に破綻している)。しかし、どれを読んでも滅法面白いのだから、そんなジャンル分けはどうでもいい。「Story」と「History」は共通の語源を持つわけだが、「将門記」や「南柯紀行」から大岡が読み解こうとするものは、そのどちらでもない。言わば「野火」と「俘虜記」のあわいにあるなにか、なのだろう。それはやがて「レイテ戦記」へと結実する。2020/08/30
Tatsuhito Matsuzaki
14
本書は筑摩書房『大岡昇平全巻第八巻』を基に「高杉晋作」「竜馬殺し」「姉小路暗殺」「天誅」「挙兵」「吉村虎太郎」など10の作品を収めた短編集。 全作品を貫いているのは著者の戦争時の逃亡・捕虜体験と批判精神、史実に忠実に在りたいという厳しい姿勢です。 タイトルにある歴史小説というよりは、日本史解説・歴史考察的な秀作です。 ワタクシ的には、他の作品とは時代が異なる故郷の英雄「将門記」が好きです。2021/12/19
Toska
9
一般に「歴史小説」と聞いて我々が想像する作品とは異質な読み味。エッセイとか歴史評論と表現した方がしっくりくる。個人的にはいつもの大岡さんだなあ、と面白く読めたのだが、人によっては何じゃこりゃと感じるかもしれない。とにかく「事実」へのこだわりが強烈で、作家の想像力は意識的に封印されている。他方、大岡には敗兵体験にアイデンティティを持つという無比の特色があり、吉村虎太郎や大鳥圭介を取り上げた作品ではそれがよく活かされていた。2023/05/10
miunac
6
大岡昇平は歴史小説に想像力も潤色も要らぬと言った。返す刀で、私の知る限り、森鷗外、海音寺潮五郎、井上靖、ツヴァイクを切り捨てた。森鷗外を論難したため国文学者に嫌われた。そういった経緯のある大岡の歴史小説は、当然のことながら他とは一線を画す。我々が一般に思っている小説ですらない。小説は何をどのように書いても良いのだ、というテーゼを持ち出して、やっと小説と呼べるものである。そのスリリングなことと言ったら!これこそが歴史小説である。『ゲド戦記』『幼女戦記』より『レイテ戦記』の方が「戦記」として正しいように。2020/03/15
不羈
5
小説というより大岡さんの歴史エッセイだった。原書や関連の古書を通じた平将門の乱の考察は難解な点もあるけれど、その視点は好きだなぁ2020/03/28