内容説明
母を見送った美津紀は、ひとり、冬の箱根へ向かう。かつて、祖母、そして母が訪れた芦ノ湖畔のホテルで夫と女が交わしたメールを読んでいると、「あたしは愛されなかった」という真実が目の前に立ち上がった。過去を正視し、今後一人で暮らしていけるかを計算する美津紀。はたして人生の第二幕へ歩み出せるのか。大佛次郎賞受賞作。
著者等紹介
水村美苗[ミズムラミナエ]
東京都に生まれる。父親の仕事の関係で十二歳の時に渡米。イェール大学および大学院で仏文学を専攻。創作の傍らしばらくプリンストン大学などで日本近代文学を教える。1990年『續明暗』で芸術選奨新人賞、95年『私小説from left to right』で野間文芸新人賞、2002年『本格小説』で読売文学賞、09年『日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で』で小林秀雄賞を受賞。『母の遺産―新聞小説』は大佛次郎賞を受賞した(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ぶ~よん
76
3年振りに再読。後期高齢者の介護が身近になり、本小説から受ける印象が変わった。以前読んだときは、「母」は憎悪の対象でしかない印象を受けたけど、今回はある程度の感謝と尊敬を感じることができた。愛情の反対は無関心。母の死を願いつつ、最後まで面倒を見た娘には、少なからず愛情があったのだと。一方、浮気夫に対しては最早興味が無くて、憎しみも湧いてこない心境だったのだろう。この印象は、自分が後期高齢者になったら変わるだろうか。少なくとも、自分の子供に死んでほしいと思われるくらいなら、さっさと次の世界へ行きたいな。2024/11/26
アーモンド
35
母の死後、いろいろ考える中で、他に女性がいる夫と、ようやく自分のの気持ちに折り合いをつけ、ひとりで生きる決心をする主人公。母の遺産は、お金だけでなく、いろいろなものを残していったという事か…。淡々としたリズムで眠気を誘われ、苦戦。何とか読了。大佛次郎賞受賞作。2016/08/26
ビグ
29
新聞小説の副題の意味が下巻で理解。祖母の生き様をみて生きた母の生き様、それを嫌悪する娘。幼少からの様々な出来事を思い出しながら、今迄の自分を振り返り今後の自分を考え結論を出していく娘。ブルジョアな世界……私には無縁。2016/03/19
燃えつきた棒
22
久々に楽しい読書だった。 最近、長編小説からとんと遠のいていた僕をここまでのめり込ませてくれた作者の筆力に舌を巻いた。 僕には、この小説は、「細雪」(映画を観ただけで、小説の方は未読なのだが)の変奏に思えた。 2016/04/24
James Hayashi
22
初読み作家であったが、なかなか惹きつけられた。下巻では夫の浮気や亡母の遺産の使い道と、それを密かに狙う輩の思いなど良からぬ展開で一気読み。エピローグも明るい未来を感じる描き方で読後感も良い。敢えて言えば、恵まれた家系で不動産や遺産も十分。それでも老後の不安を感じる主人公のみの言い分で、ほとんど男性的目線を感じなかった。自分の母に早く死んでほしいと願ったり、遺産相続のgreedy な面を描きながら、暗さを感じす安定した息づかいを感じた、賞受賞にふさわしい作品。2015/07/13
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- 和書
- これぞ副菜