内容説明
幽晦との境界が、破れている。内部の薄明が昏黒に洩れている。ならばそこから夜が染みて来る…。生まれてこのかた笑ったこともない生真面目な浪人、伊右衛門。疱瘡を病み顔崩れても凛として正しさを失わない女、岩―「四谷怪談」は今、極限の愛の物語へと昇華する!第二十五回泉鏡花文学賞受賞作。
著者等紹介
京極夏彦[キョウゴクナツヒコ]
1963年、北海道小樽市生まれ。94年『姑獲鳥の夏』で作家デビュー。96年『魍魎の匣』で日本推理作家協会賞、97年『嗤う伊右衛門』で泉鏡花文学賞、2003年『覘き小平次』で山本周五郎賞、04年『後巷説百物語』で直木賞を受賞
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感想・レビュー
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しいたけ
118
誰かを恋うこと。自分の何物に代えてもその人の幸せをとること。痛みを喜んで引き受けること。清洌な思いは美醜を超える。どちらが歪んでいるのか、答えはため息とともに闇に吸い込まれていく。幸か不幸か、終盤までこの本のカラクリに気がつけなかった。それゆえのラストの驚愕。幾重にも重なった歪んだ愛。死せば蛆がわく人の身なればこそ、昇華する愛の美しさに涙する。圧巻。2018/05/22
遥かなる想い
109
四谷怪談を基盤に著者独自の脚色を入れた 作品である。お岩と伊右衛門の人物造形が 面白い。 四谷怪談とは全く別の展開ではあるが、 ある意味著者らしい絢爛たる魍魎の世界を 楽しめる。やや伊右衛門のキャラが 弱いのが残念だが、漆黒の闇が染み渡る… 新四谷怪談作品だった。2024/03/15
はらぺこ
87
確かに『四谷怪談』が極限の愛の物語になってたと思う。 伊右衛門とお岩さん、お岩さんと又左衛門、他の登場人物の組み合わせでも、もう少し会話や相談をしてれば違う結末になった気がする。2013/09/11
たいぱぱ
66
誠実で真っ直ぐ過ぎる人間が陥る哀しみと狂気(純愛とも言えなくはない)。不誠実でサイコパスな人間が生き残る不条理。切なくて哀しくて憎くて、そして物語の世界に埋没していった。京極版「四谷怪談」と言われてるけど、そもそもお岩の物語をちゃんと知らないことに気付く。「番町皿屋敷」と近藤局長・・・混同していた。お岩が皿を数えると思ってた(笑)。京極さんの作品は数多く読んでないけれど、一番夢中(面白いというと語弊があるんで)になった。この世界観は暫く忘れそうにない。本当の「四谷怪談」もちゃんと読んでみたくなりました。2020/05/14
Yuna Ioki☆
58
1349-45-6 ☆時代小説祭No.5☆ 再読。京極夏彦の世界にどっぷり浸る1冊。又市をもってしても悲劇は避けられなかった。2016/04/03