内容説明
青春の追憶と内なる魂の旅を描く表題作ほか6篇。著者初の短篇集。
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- 評価
乱読太郎の積んでる本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
460
長編小説『羊をめぐる冒険』の前後に書かれ、いくつかの文芸誌に発表された短篇7つを集めた作品集。最後の「シドニーのグリーンストリート」は羊男もので、これらの中では異色だが、それ以外はこの時期の作家の日常を私小説風(あくまで風だ)に綴ったもの。長編に比べると、肩の力を抜いて書いたような印象だ。いずれも、現実あるいは他者との間に、どこというのではないが微細な(しかし、それでいて本質的な)違和が「僕」との間にはあり、そのことが村上らしさとして立ち現れてくるようだ。2012/06/08
おしゃべりメガネ
201
あの村上春樹さん初の短編集で書かれたのは、なんと今から30年以上も前の’80年〜’82年です。当然、スマホも携帯はもちろんポケベルも出てこない作風は古き良き時代を感じさせてくれます。7編あり、最初の4編が『ピンボール』期に書かれており、後半の3編が『羊をめぐる冒険』期に書かれたようで、このあたりにも作風の変化が感じられます。ただ、やっぱり万人に受ける作風ではないようで、大体が正直何が何だか?的な雰囲気です。あの独特な言い回し、表現の原点を十分に満喫?できますが、残念ながらスッキリ感はビミョーな感じです。2016/07/27
hit4papa
164
本作は、村上春樹の初短編小説です。寂しさを感じさせる乾いた文章、平易だけれど巧みな表現方法、どこか異国を思わせる空気感、懐かしさを伴った幻想的な風景 ・・・ 巷に溢れる村上春樹論に、目を通さず感じたままを述べるとこうなるでしょうか。特に琴線に触れたのは、突き放したような距離感です。他者との間にある隔たりを、あえて乗り越えていこうとしない。あるがままを受け止める。そこに潔さのようなもの見るのです。自分は、元来、孤独な人ではあるので、こういう距離のとり方に共感してしまいます。「午後の最後の芝生」がお気に入り。2019/10/02
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
163
あなたのことがとても好きよ、笑ったあのこの口許をみていた。喫茶店に流れる流行りのメロディラインは今でもふとした瞬間よみがえって僕にきみのことを思いださせるけど、きみの顔も名前ももう思い出せない。 雨のふりつづくホテルに閉じこめられるのは、もしかしたらそんなに悪くはないのかもしれなかった。私もきっと、消えてしまったものが好き。2020/08/26
おしゃべりメガネ
160
先日、村上春樹さんに多大なる影響を受けているという大崎善生さんの作品を読んで、改めてその影響度を感じました。そんな大崎さんが何回読んだかわからないとあげていた春樹さんの短編集の一つです(ちなみにもう1つの短編集は『パン屋再襲撃』です)。以前、読んだトキのレビューにも書きましたが、やはり本作が書かれた時期が時期だけに、作者さんのその頃の雰囲気を強く感じとるコトができます。色んな話が書かれてますが、春樹さんの作品を読むとやっぱりビールが飲みたくなって、本作では「グレン・グールド」がとても聴きたくなりますね。2020/05/31