内容説明
幻の運命共同体「極楽船」があてのない航海に出た。さまざまな過去を背負った乗客たちが極限状況で繰り広げる死と狂気を描き、日常の世界がいつのまにか非日常の世界に転じてしまう不分明さを衝く。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
踊る猫
4
「極楽船」とは海に向かって出航するのではなく、三途の川を渡っているのではないだろうか? そんなことを考えながら読み進めた。それはつまり「死」に向かって降りられない旅を続けなければならないという、現代社会の縮図を描いているような気がしたのだ。グランドホテル形式で綴られたこの作品は吉田知子氏の作品の中では割と読みやすく、ところどころユーモアも感じさせられてそこが興味深い。とは言え読後感はヘヴィである。憂鬱な時に本書を読むとそれこそ「死」に引きずり込まれてしまうだろうから近寄らないことを強く薦めておきたい一冊だ2016/02/27
まどの一哉
1
登場する人間は実に平凡であるのに突然非日常な世界に投げ込まれて、読み出すやいなやワクワクとする。乗船しているのがまさに家族や夫婦間の問題で疲れ果てた人びとで、そこには作者得意のシュールな表現はかけらもないのだが、切々として引き込まれる。なかでも身体弱き妻に頼られながら、だんだんと認知症を発症させていく夫の話はおそろしくも悲しい。 2019/10/18
doradorapoteti
1
吉田知子の作品では一番好き。