出版社内容情報
日本と同時期に近代化を歩みはじめ、東南アジアで唯一独立を守ったタイ。時代に翻弄されながら生き残ったタイ民族一〇〇〇年の興亡史。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
skunk_c
66
著者が「はじめに」で明記するように、まるで教科書のようなタイ史の概説書で、本シリーズの碩学達のようないわゆる「物語」的な遊びは余り感じられない。しかしそれは裏を返せば過不足なく筋を通して語るということで、周辺諸地域との関係を含め、とてもわかりやすい通史となっている。特に20世紀の大戦期における対外関係はまさに「世渡り上手」。一方特に現代の内政に関しては、少々調整役であった国王依存的なところもあるようで、本書上梓以降の、先代に比べはるかに評価の低い現国王の下での混乱は、そうした歴史の延長にあるように思えた。2024/07/12
coolflat
15
20頁。現在では南詔がタイ族の支配する王国であったとの説は完全に否定されている。この王国の支配者はチベット・ビルマ語族のロロ族であると考えられている。26頁。現在のタイ族の領域で最初に現れた大国は、ドゥヴァーラヴァティーであったとされている。この国は7~11世紀にかけてタイ中部を中心に栄えたモン族の国家である。31頁。タイ領に関わる政治権力としてはドゥヴァーラヴァティー、シュリーヴィジャヤ、真臘、クメールなど多数の王国が存在していたが、ドゥヴァーラヴァティーを除いてその中心地は現在のタイ領の外にあった。 2017/02/02
サラダボウル
14
さらさら読みだけど、読みやすい文章。地図を見ていて、ふんふん、メコン川がタイとラオスの国境なんだなぁと思っていたけど、"元来河川は文化の障壁ではなく、むしろ文化を育む媒体であった。メコン川中流域にはラーオ人が広く分布しており、古くから同一の文化圏に所属していた。ところが、この国境線の画定(1893年、フランスの軍事的圧力、イギリスはタイに助力せず)によって、彼らは二つの領域国家に分断されることとなった。"とのこと。はっとする。2025/03/01
NoControl
12
他の東南アジア諸国が植民地化するなか、幸運にもフランスとイギリスの緩衝国的な位置となり、かつ早急な諸制度の近代化によって独立を保ち、2回の世界大戦も巧みな外交戦略によって乗り切った国だと。近代以前のインドシナ半島成り行きを見ると、あの辺りの国が仲があまり良くないのもさもありなんという。現国王の代替わりはタイ現代史にとっても一大転機の一つだが、本書は2006年までの記述に留まっているので、増刷するならまた章が増えそうな予感。2019/12/07
cape
11
インドシナで凌ぎを削る時代から、西欧諸国から唯一独立を守り通した近代を経て、戦後にいち早く経済発展の目処をつけたタイ。現代の政治体制は、繰り返されるクーデターで度々混乱し、政情は今もまだ不安定。そんなタイの歴史をさらっとおさらいできる良書。東南アジアは一国では語れない。文化、政治、歴史、どれもが近隣諸国と密接に重なりあっていることがわかった。面白かった。未完成の熱気溢れるタイの未来が楽しみになった。2020/06/06