内容説明
大阪南部のある一族に持ち上がった縁談を軸に、わがままな母を甘やかす本家の祖父母、学生運動をしていた婿養子の父、穏やかで優しい精神を病んだ叔母、因襲的な親戚の姿を、河内弁で幼女の視点から鮮やかに描き出す。三島由紀夫賞受賞作にして新潮新人賞受賞の驚くべきデビュー作。
著者等紹介
三国美千子[ミクニミチコ]
1978年大阪府生まれ。近畿大学大学院文芸学研究科修了。2018年「いかれころ」で第50回新潮新人賞受賞。2019年同作で第32回三島由紀夫賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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モルク
96
南河内の豪農杉崎家の長女で分家をしてもらった久美子を母にもつ4才の奈々子の視点で描かれる。久美子の妹、奈々子の叔母志保子の縁談、とんとん拍子に話は進むが…。好きな人と結婚できず、家を守るため婿養子を迎えざるをえなかった久美子。婿養子である父の立ち位置。昭和58年ということだが、もっと前昭和20年代に感じられる。この閉鎖感はこの時代この地方でこんなにも残っていたのか。久美子のような母親を持つと奈々子は大変だっただろうな。わかるわ。2022/10/24
クリママ
62
今は歳を重ねているが、4歳の幼稚園児だったころの視線で語られる南河内の豪農一族の日々。分家を作るため不本意な結婚をした母親、心を病む優しい叔母。「ほーじ、アカ、セイシン」等、子供の言葉で理解するものの、その中に潜む差別に気づき、親戚の女達の話から、女は結婚しなければならず、その結婚生活は不幸であることを感じ取る。家や子供を思い精一杯してきたのにどこで間違ったのか、祖父の言葉が重い。耳にした言葉、事柄を咀嚼しようとする幼女の手記のようでありながら、その閉塞感がひしひしと伝わってくる、実によい文学作品だった。2022/08/30
真理そら
58
第32回三島由紀夫賞受賞作。南河内の旧家の娘・奈々子の幼いころの視点で描かれた一族?の日常。奈々子の父はこの旧家の娘に婿入りしている。父は東大受験が中止になった年の受験生で学生運動崩れ、母は跡取り娘ではないのに分家して婿取りをするという過保護な立場。両親の仲は良いとは言えない。なんとなく閉鎖的な一族の中で縁談が持ち上がり…。2020/11/13
よこたん
42
“「山のむこて何?」「だいぶったんのいはる大和や」「大和のむこは?」「富士山があるやろ。ほんでとーきょ」” 田んぼと畑、どーんと建つ百姓屋敷。梁の太い、黒光りした柱の、部屋の隅の薄暗さ。ひそひそ話のなかに含まれる自慢と羨望と棘と毒と差別。聞かれても、所詮幼子やし、と思うてるやろけど、ちゃあんと聞いてるし。意味はわからんでも、言葉尻の危うさに身をかたくする。身勝手な大人に振り回された記憶とともにふと触れた優しさの欠片も心に残る。私の故郷のすぐ近くのあの辺りの物語だった。コロ入りの関東煮、私も苦手だったな。 2019/09/21
いっち
36
新潮新人賞と三島賞をダブル受賞。『壺中に天あり獣あり』、『青痣』を抑えて三島賞受賞。「いかれころ」とは、踏んだり蹴ったりという意味の方言だそう。差別や田舎の人間関係を、4歳の少女視点で描く。その少女が達観していることに違和感。出来事に対して客観的。田舎の人間関係を、少女が理解しているとは思えない。4歳の少女に現在の大人視点が加わっているかららしいが、違和感が残る。細かな描写は南大阪の風景が目に浮かぶ。登場人物がうまく描き分けられている。しかしどうも心を動かされないのは、自分がムラ社会で育っていないからか。2019/11/17