内容説明
父、母、愛、死をテーマにしたたかな生き方を選んだ作家が描く神秘と謎に満ちた没後初の作品集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
347
表題作を含めて3つの作品から構成。巻頭の「ファラダの首」は、グリム童話「がちょう番の娘リーゼル」に想を借りた幻想譚。物語の結び方は、意識してかどうかはわからないが澁澤龍彦の小説を思わせる。続く表題作は、サン・マルコのフラ・アンジェリコの「受胎告知」を、これまた巧みに用いた小説。「恵のモノローグ」は矢川自身をモデルにしたかのようである。2世代(時間的には3世代)にわたる葛藤のない親子の物語。これもまた、あるいは作家の抱いた理想の家族の有り様であったのかと思う。最後の「湧きいづるモノたち」は、物語としては⇒2022/11/13
青蓮
96
読友さんの感想とタイトルに惹かれて手に取りました。「ファラダの首」は少し幻想的なお話で一番解りやすい作品。こういうテイストの作品は大好きです。「受胎告知」と「湧きいづるモノたち」は家族がテーマで、私には少し難解と言うか、共感できる部分があまりなかったけれど、でもそう言う点が却って新鮮に感じました。ここに登場する完璧な男性像や何か大きなものに包まれていたいという感情はファザコンの延長線上にあるものなのかもしれない。そう感じる私自身が実はファザコンなのかも。表題作の「受胎告知」は神話をうまくトレースした傑作。2016/12/05
たまきら
20
「天使は必ず、左からやってくる。」西洋美術史の教授の言葉がいつもぐるぐる頭に残る。白が象徴するイメージがいかに近代のものなのかを知ったのも、そのクラスだった気がする。様々な経験をするたびに、少女だった自分は変化していった。最初の手ひどい恋人の仕打ちも、自分のしたひどい仕打ちも、すべては自分が書き続ける人生の中の一部でしかない。おんなであるということをなんと自然に表現されているんだろうと思う反面、男性の描写にはあまり気持ちが沿わなかった。不思議な読後感で、まだプロセス中です。2020/11/06
あ げ こ
16
信じ難いほどに、驚くほどに、綺麗で、貴重で、清澄。拠り所を持つ者達の。自らを守る、完全な庇護者を持つ者達の幸福。自らを理解してくれる、完璧な存在の庇護下。豊かで、安らかで、満たされている、蜜月めいた、幸福な空間。その存在の大きさ、己が身がすっぽりと収まってしまうような。そこにいれば何も不足する事がない、と言うような。自らの求める何もかもがそこにある、と言うような。絶対的な安心感。それは本当に稀有で、恵まれていて、貴重なものだ。汚さがないと言う事。何一つ他に必要としない、何一つ貪欲になる必要がないと言う事。2019/06/16
loanmeadime
13
三篇からなる短編集ですが、古いチェスの駒一つから、グリム童話の世界、戦中戦後の人々の思い、と世界が広がる「ファラダの首」が一番よかったです。メモを辿ってみると、著者の翻訳をいくつも読んでいたことに気付きました。2024/10/19