内容説明
両親と死別し、遠縁にあたるドリーとヴェリーナの姉妹に引き取られ、南部の田舎町で多感な日々を過ごす十六歳の少年コリン。そんな秋のある日、ふとしたきっかけからコリンはドリーたちと一緒に、近くの森にあるムクロジの木の上で暮らすことになった…。少年の内面に視点を据え、その瞳に映る人間模様を詩的言語と入念な文体で描き、青年期に移行する少年の胸底を捉えた名作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
231
これは自伝的な小説なのだろうと、読んでいる途中からしきりにそう思う。カポーティの伝記を知っているか否かには関わりなく。この小説を支配するのは強固なまでのノスタルジーである。しかも、それは通常の意味では、けっして幸福であったとは言えない作家の少年時代を描いているにも関わらず。そして、このアメリカ南部の空気感はどこから来るのだろう。木が針葉樹ではなくて、広葉樹だからだろうか、川の流れと空気の淀みだろうか、人と人との関係の濃密さの故だろうか。表題の「草の竪琴」は、かそけき郷愁と、望郷の想いを奏でるかのようだ。2014/11/28
ハッシー
217
【草の竪琴は丘に眠るすべての人たちの物語】▶草原で風が通り向けていく音はもの悲しいがどこか温かみもある。初めて行く場所であって木の葉のざわめきや稲穂の擦れる音がすると懐かしさを覚え郷愁に駆られる。▶これは作者の幼少期を綴ったノスタルジア小説。2016/12/05
buchipanda3
97
「あれは草の竪琴よ。この世に生きたすべての人たちの物語をみんな知っているのよ」。茜色に染まった草原の秋風になびく光景がそっと郷愁をそそる。豊かな自然を残す田舎町で起きた風変わりな出来事をかつての少年が回想する物語。それはずっと心の奥に留めておきたい、そう思わせる話だった。無垢の大切さは誰もが知っている。でも現実を生きていくにはそれだけではやっていけないことも知っている。それでも自分はまだ無垢を信じているのだと思う。この本はそれを思い出させてくれる。ドリーの愛情を胸に次なる環へ跳び移った彼の姿を見ながら。2024/08/21
やきいも
82
「ティファニーで朝食を」の作者カポーティーによる作品。多感な日々を過ごす16歳の少年コリンは遠縁にあたるドリーやヴェリーナの姉妹達とムクロジの木の上で生活する事になるが...。「愛」についてストレートに語られる箇所が何ヵ所かあり、ついその箇所に戻ってきて読み返してしまう。「ストーリーが面白い」というより「文章の美しさ」でひきこまれてしまう本。胸の中にじわじわとしみてくる本。2016/12/31
metoo
74
色彩豊かで美しい一編の映画を観たような読了感。両親が死別し、親戚の姉妹に引き取られた少年コリン。コリンはまさにカポーティ。彼の生い立ちと重なる。そしてハーパー・リーの「アラバマ物語」を読了後すぐにこの作品に会えて良かった。「アラバマ」に登場するディルはカポーティがモデルである。本作と「アラバマ」の全く異なる作品に、重なり共通するものが、幼なじみだった二人の著者の共鳴し影響を受けあった感受性であり、それが草の竪琴の旋律となって私の心に届いた。2016/03/23