内容説明
町をあげての婚礼騒ぎの翌朝、充分すぎる犯行予告にもかかわらず、なぜ彼は滅多切りにされねばならなかったのか?閉鎖的な田舎町でほぼ三十年前に起きた幻想とも見紛う殺人事件。凝縮されたその時空間に、差別や妬み、憎悪といった民衆感情、崩壊寸前の共同体のメカニズムを複眼的に捉えつつ、モザイクの如く入り組んだ過去の重層を、哀しみと滑稽、郷愁をこめて録す、熟成の中篇。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
413
マルケスのリアリズム文学の系統に属する1篇。物語中の地名から、舞台はコロンビアであると思われる。この小説はまさしくこの地域に根差す物語であり、マチスモ(中南米特有の男性優位主義)がその根幹に横たわる。処女でなかった花嫁を実家に戻すことも家の「名誉」のために一族が復讐を果たすことも、すべてこのマチスモの故だからである。この作品を読むまで、この地域にアラブ系の移民がいることを知らなかったのだが、どうやらこのこともまた、この地域の状況を複雑にしているようだ。サンティアゴは、いわば「犠牲の子羊」であったのだろう。2013/01/01
Major
210
思わずストーリーに引き込まれ、一気に読み切ってしまった。共同体の機能としての崩壊、疎外感、よそよそしさ、ペーソス、滑稽さ・・・こうしたモチーフがモザイクのように計算されたストーリー構造の中に、いきいきと埋め込まれ、読み手を魅了するのだ。それにしても、殺人の場面の”マトリックス”ようなコマ送りの描写は圧巻である。登場人物の名前や地名に隠されているであろうアナグラム、数字の意味を探ってみると、すでに殺人が予告されていることが暗示されているかもしれない。2017/09/02
匠
203
タイトル通り予告され街の人々から知られながらも無関心の中、1人のアラブ系移民が惨殺されるという、1951年に南米コロンビアで起きた実在の事件をモデルに、あくまでも客観視に徹した筆致で描かれるその事件の顛末。まさに血祭りでしかない殺し方、そこに根差す復讐心や男性優位主義には中南米特有の煮え滾りを感じるのに、一握りの謎を残しながらも人の感情をまるで描かない淡々と構成された文章からは、清々しいほどの冷静さしか感じさせず、不思議な読後感。そうかこれがマルケスの特徴であるマジックリアリズムというものなのだと唸った。2014/07/10
抹茶モナカ
170
これは小さな作品だけど、密度が凄い。さすがマルケス。比較的、入手しやすい文庫本でマルケスが読める。これは素敵。2013/03/30
青蓮
145
ガルシア・マルケスはずっと気になっていた作家です。「百年の孤独」は難しそうなので、こちらの作品から読んでみました。本書は実際にあった事件をルポタージュ風に小説化したもの。150頁足らずの物語でしたが圧倒的な密度で惹き込まれました。殺人予告があったのにも拘らず、皆それを知っていたのに何故か止められずに起きてしまった殺人事件。閉鎖的な田舎町特有の複雑に絡み合った人間関係の描写が巧みで、それ等がラストに起きる殺人事件へと収斂していく様は見事。読み終わったらまた最初から読みたくなる。マルケスの他の作品も読みたい。2017/07/25