出版社内容情報
神を愛するがゆえ、彼を愛せない――。二つの愛に苦悩する女性を描いた傑作古典。
早く父を失ったジェロームは少年時代から夏を叔父のもとで過すが、そこで従姉のアリサを知り密かな愛を覚える。しかし、母親の不倫等の不幸な環境のために天上の愛を求めて生きるアリサは、ジェロームへの思慕を断ち切れず彼を愛しながらも、地上的な愛を拒み人知れず死んでゆく。残された日記には、彼を思う気持ちと“狭き門”を通って神へ進む戦いとの苦悩が記されていた……。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
364
高校生の時以来の再読。以前の印象では、後半のアリサの日記ですべてが明らかになったと思っていたのだが、今回は全く違ったものになった。ジェロームとアリサの対立項は、単に男と女の置かれた状況や、視点の違いといったことではなく、世俗的な幸福と宗教的な求道との二律背反にこそあるというのが今回の見方だ。それにしても割り切れない想いを残す小説だ。ジェロームも、アリサも、そしてジュリエットも、誰一人幸福にななれないのだから。少なくても世俗的な意味においてはそうだ。若き日のジッドの煩悶がこの小説を書かせたのだろう。2015/02/13
ナマアタタカイカタタタキキ
125
生命に至る路は狭ければなり。福永武彦『草の花』に通ずるものが見えた。この愛の結末も、結局のところ肉体から逃れられなければ成就しないほどのものを追求してしまったが故の破綻というように私は感じた。その信仰自体、アリサ自身のためだけにあるもののように思えてしまう。祈りの姿勢を全うすることで彼女が得たものはなんだろうか。二人の手紙のやり取りが心打つものだっただけにより悲痛だ。もし生身の人間同士で愛し合うにも、互いの肉体や精神を欲しない限りは、それより高い次元にある本質的なものに手を伸ばすことも叶わないだろうから。2020/05/22
のっち♬
117
「力を尽くして狭き門より入れ」「死ぬっていうのはかえって近づけてくれることだと思うわ」無邪気な歓喜から厳しい掟の方へ。徳行、理知のひらめき、礼儀などから発展するアリサの自己犠牲愛は非常に純粋だが過激かつ独善的で、妹のジュリエットの対比には皮肉・批判も込められているかのよう。自己犠牲とは?内面の美しさとは?アリサにとって本当の狭き門はどちらなのか?「人間の終局目的は、神の問題を少しずつ人間の問題に置き換えるにある」緊張感と精緻さ、気品があり装飾のない文章、同一事象を男性視点と女性視点で描くその構成力が白眉。2019/05/14
ヴェルナーの日記
112
マタイ伝第7章14節「命にいたる門は狭く、その道は細い。そして、それを見いだす者が少ない」の如く頑なに禁欲に生きようとするアリサ。彼女は、ジェロームにも、それを強いようとする。それは快楽的な母親に対する嫌悪感から来る反面教師として感情なのか?それとも、自身の命の灯火が短いことを悟っていたのだろうか?ジェロームは、そんな彼女の行き方に疑問を投げ掛ける。しかし、それは彼自身に対する投げ掛けでもあり苦悩する。その最果てに2人が辿り付いた場所は…… 結果的にジェロームは、アリサの影に一生悩まされるだろう。2014/05/14
扉のこちら側
111
初読。2016年12冊め。【106/G1000】牧師が「狭き門」の説教をした時にジェロームは「狭き門=アリサの部屋の戸口」をアリサに重ねて見るが、「狭き門」は、「二人並んで通れないほど狭」かった。自己犠牲が過ぎるが故に恋を捨てたアリサと、恋を追い続けたジェロームの、結ばれなかった二人の悲恋。【新潮文庫夏のキャンペーン1961】2016/01/08