内容説明
藩の名刀を奪い、役人を斬って薩摩藩に逃げ込んだ侍を上意討ちにする命をおびた矢作次郎八と岡田久馬。2人は首尾よく本懐を逐げるが、薩摩藩士に取り囲まれ退路を断たれる。千久馬を逃がし、その場で死んだと思われていた次郎八が2年後に藩に姿を現した時、かつての許嫁は千久馬のもとに再嫁いでいた―。次郎八のとる意外な行動を描く表題作ほか、「与茂七の帰藩」など全11編を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Yamazon2030
54
2016(51)読了32歳から39歳にかけての初期の短編11本。いつ読んでも山本周五郎の短編は素晴らしい。「与茂七の帰還」の傲慢さに気づくところに頷きながら読む。「江戸の土計師」の芸に対する真剣さに打たれる。「あらくれ武道」の助け補いあう夫婦の形に感動。現代もの二編は少し残念。初期の作品にもかかわらず、読ませる内容でした!2016/11/01
のびすけ
30
周五郎先生の初期の作品集。「牡丹花譜」は、健気な奈々の実らぬ恋と牡丹に託した想いがとても切ない。大作「樅ノ木は残った」に通じる人物の登場も興味深かった。表題作「酔いどれ次郎八」は、次郎八がとる無道な行動の真意が胸に響く。「武道仮名暦」は、藩の危機を救う伝八郎の活躍をユーモアも交えて爽やかに描く。「与茂七の帰藩」は、武芸に秀でた二人の若者の心の触れ合いが清々しい。「人間紛失」は、ここに収録されているのがとても場違いな印象の現代探偵もの。江戸川乱歩のジュベナイル作品のような雰囲気で面白かった。2023/09/21
akio
29
「牡丹花譜」が読みたくて開いた一冊。どの短編も味わい深く、よくよく咀嚼したくなるような味わい。爽快で優しく心地よいものの、切なくてじくじくするような鈍い痛みがある。周五郎を読むと、あぁ時代物もいいな、といつも思います。2022/04/13
シュラフ
20
山本周五郎の世界、それはきっと日本人の美徳ということなのだろう。現代のビジネスの非情な世界からみれば おやっ と思うような展開があるのだが、余韻の残るような終わり方。読メのみなさんからの支持が多いというのも、きっと現代に生きるみんなも日本人としてのDNAをもっているということなのだろう。表題の「酔いどれ次郎八」は、死んだと思われていた次郎八が 今は夫婦となった かつての親友と許嫁のもとに現れる。自ら二人の前から身をひくために次郎八は意外な行動に出る。読んであっけにとられると同時に読後の深い感動が残る。2015/01/11
タツ フカガワ
18
再読。時代物9話、現代物2話を収録。次郎八が酔いどれの拗ね者になった理由が切ない表題作ほか、「武家仮名暦」の伝八郎、「与茂七の帰藩」の与茂七、「あらくれ武道」の新兵衛の人物造形がホント魅力的。周五郎さんの短編にはこんな人物がいっぱいいるので、ついつい読んでしまいます。2020/01/30