内容説明
日本美術史に燦然と輝く芸術家十人が、血の通った人間として甦る―。新進気鋭の快慶の評判に心乱される運慶。命を懸けて、秀吉と対峙する千利休。将軍義教に憎まれ、虐げられる世阿弥。将軍家、公卿、富商の間を巧みに渡り歩く光悦。栄華を極めながらも、滲み出る不安、嫉妬、苛立ち、そして虚しさ―美を追い求める者たちが煩悩に囚われる禍々しい姿を描く、異色の歴史短編小説十編。
著者等紹介
松本清張[マツモトセイチョウ]
1909‐1992。小倉市(現・北九州市小倉北区)生れ。給仕、印刷工など種々の職を経て朝日新聞西部本社に入社。41歳で懸賞小説に応募、入選した『西郷札』が直木賞候補となり、1953(昭和28)年、『或る「小倉日記」伝』で芥川賞受賞。’58年の『点と線』は推理小説界に“社会派”の新風を生む。生涯を通じて旺盛な創作活動を展開し、その守備範囲は古代から現代まで多岐に亘った(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ふじさん
82
二十代に一番読んだ作家が松本清張だった。本箱に溢れた松本清張の文庫本を整理する段階で、手元に残した一冊がこの本だ。日本の美術史に燦然と輝く芸術家を清張は、血の通った生身の人間として描き出した。歴史小説として捉えれば、清張の主観がかなり入っており、彼の人物評価が良く分かる。何度読んでも面白し、人物に新しい発見がある。どんな優れた芸術家も悩みや苦しみを持って生きる普通の生身人間なのだ。改めて実感する。 2021/01/16
藤月はな(灯れ松明の火)
81
捨て切れない煩悩を抱えながら、潮流に翻弄され、芸に対峙する者の煩悶を描いた短編集。特にサラリーマンからすれば、身に詰まされる話もあるので読む時はご注意を。日本史では「運慶・快慶」と二人組で紹介されがちだが、この小説の運慶がそれを目にしたら憤るに違いない。自分が最先端を築いたと自負していた技が最早、時代遅れだったと知る辛さと時の藻屑へと消えるだろう人間の営みの儚さが重なり合う。凋落した世阿弥の次世代と受け継がれる筈の「芯」を惜しんだ自分の弱さへの気づきも只々、遣る瀬無い。2017/11/14
植田 和昭
19
通読するのにかなりエネルギーを使った。10人のうち、写楽と利休・運慶ぐらいしか知らなかったし、芸術家を書くというのは難しいのだなと思った。僕には、少々高尚すぎた本だった。松本清張というと推理小説と思っていたが時代小説でもなんでもかけるのだということがわかった。次は小倉日記に挑戦したい。2021/06/10
河内 タッキー
15
10人の芸術家を取り上げた短編集。松本清張らしく、歴史小説ではあるが、それぞれの主人公の心理的葛藤を主に描いていて面白い。何の迷いもない一流の芸術家とおもいがちだが、先人やライバル、雇い主に暗い感情を抱いていて、そんな一面もあったのかと改めて作品を鑑賞するとまた違った見方ができる。そんな中「写楽」がコミカルな雰囲気でいい。2018/02/28
koji
15
4月読了1冊目です。新天地で生活と仕事に慣れるのに時間がかかり、殆ど本が読めませんでした。読書は環境に左右されると改めて認識しました。それはさておき、本書では室町から江戸の代表的芸術家の人間像を、清張先生らしく芸術家の内面に巣食う嫉妬、高慢、悲嘆、執着、堕落、意地悪等負のエネルギーが転落、自己崩壊等次第に自己が壊れていくさまを余すところなく描いています。個人的に相槌を打ったのは、小堀遠州が才能の高さ、小器用さゆえ上の者から便利使いされ端っこばかり歩かされたとの記述。サラリーマンには骨身に染みる言葉です。2017/04/15