内容説明
四人の若者は皆、巨大な壁の前に為す術もなく立っていると感じていた―。世界の崩壊を信じるエリート社員杉本清一郎、大学拳闘部の選手深井峻吉、才能に恵まれた画家山形夏雄、美貌の無名俳優舟木収。彼らは、資産家の令嬢、鏡子の家に集まってくる。長く緩慢な人生という現実をいかに生きたらよいのか。ひりつくような生の軌跡と痛みに満ちた青春の終り。
著者等紹介
三島由紀夫[ミシマユキオ]
1925‐1970。東京生れ。本名、平岡公威。1947(昭和22)年東大法学部を卒業後、大蔵省に勤務するも9ヶ月で退職、執筆生活に入る。’49年、最初の書き下ろし長編『仮面の告白』を刊行、作家としての地位を確立。主な著書に、’54年『潮騒』(新潮社文学賞)、’56年『金閣寺』(読売文学賞)、’65年『サド侯爵夫人』(芸術祭賞)等。’70年11月25日、『豊饒の海』第四巻「天人五衰」の最終回原稿を書き上げた後、自衛隊市ヶ谷駐屯地で自決。ミシマ文学は諸外国語に翻訳され、全世界で愛読される(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ぐうぐう
46
『鏡子の家』の不幸は『金閣寺』のあとに発表されたことかもしれない。小説家としての才能をこれでもかと見せ付けた『金閣寺』の次に向かう長編への強い意気込みとは裏腹に、『鏡子の家』の評価は低く、当時三島は落ち込んだというが、そもそも「『金閣寺』で個人の小説を書いたから、次は時代の小説を書かうと思ふ」と三島自身が述べているように、『鏡子の家』が『金閣寺』の反動の産物であることをまずは理解しないといけないのだろう。(つづく)2023/06/06
NICKNAME
26
以前読んだ禁色に続き、非常に長い作品であった。この作品は一応要になるキャラクターがありながら、その他数名のキャラクターが関わり合いながらその時々それぞれ主人公になるという形式で三島作品としては異例ではないかと思う。悲劇的な結末に終わるキャラクターが主であるがその他も結局なんだかスッキリしないという感じである。最初の2/3程度までは正直退屈であったが終わりに向けて多少引き込まれて入って読むスピードも上がりました。三島作品としては傑作とは言えないのではないかと思う。2022/02/19
たつや
8
色々と面白い作品でした。青春群像劇に違いはないが、三島由紀夫だから、チャラチャラしたものは書かない。皆が壁にぶつかり、人生は緩慢だと感じていた。そんな彼等は、令嬢鏡子の家に集まるのが、世界中がハリボテに見えた。もはや、「戦後」ではなかった。この、戦後が意外と重要なキーワードだと思う。2025/03/28
コージー
8
★★★☆☆2024/01/10
ルマンド
6
峻吉、収、夏雄、清一郎という作中人物達各々の性格、行動、辿る経過というモノが、「作者の三島自身がその裡に秘めていた“多面性”」を反映し、象徴しているように思えた。その“多面性”を半ば鏡子に重ねながら見詰めて綴っていたのではないか。 作中世界は「1954年から1956年」。そして作品が著された時期は「1958年から1959年」。或いは三島は、自身とほぼ同世代から少し若い世代の青年達を一群の主要視点人物に据えながら、「自身の人生が在った時代」とか「自身の青年期」を纏めようとしていたのかもしれない。2022/09/25