内容説明
ともに華族に生まれた松枝清顕と綾倉聡子。互いに惹かれ合うが、自尊心の強さから清顕が聡子を遠ざけると、聡子は皇族との婚約を受け入れてしまう。若い二人の前に、燃えるような禁忌の道が拓かれ、度重なる密会の果て、ついに恐れていた事態を招来する―。三島が己れのすべてを賭し、典雅なる宿命世界を描き尽くしたライフワークたる『豊饒の海』第一巻。自らの死を意識しつつ書かれた三島最後の作品、全四巻。
著者等紹介
三島由紀夫[ミシマユキオ]
1925‐1970。東京生れ。本名、平岡公威。1947(昭和22)年東大法学部を卒業後、大蔵省に勤務するも9ヶ月で退職、執筆生活に入る。’49年、最初の書き下ろし長編『仮面の告白』を刊行、作家としての地位を確立。主な著書に、’54年『潮騒』(新潮社文学賞)、’56年『金閣寺』(読売文学賞)、’65年『サド侯爵夫人』(芸術祭賞)等。’70年11月25日、『豊饒の海』第四巻「天人五衰」の最終回原稿を書き上げた後、自衛隊市ヶ谷駐屯地で自決。ミシマ文学は諸外国語に翻訳され、全世界で愛読される(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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Y2K☮
34
聡子の清顕への恋はピュアでシンプル。だが清顕の聡子への恋は禁忌を破ることへのそれが第一義だったのかもしれない(好きだったのなら結婚できたわけだし)。ただ最初の入り口はそうだったとしても、自尊心で押し殺していた想いに嘘はなかった気もする。だからこその終盤。題に込められた意味を考えると胸が苦しくなるし、雪の日のエピソードを思い出して涙腺が緩む。華族のきらびやかな日常を絢爛な文体で生々しく描けば描くほど、見栄や建前や世間体がすべてな偽善性が際立つ。ここに三島の意図を感じた。第二部は英雄的な行動小説らしい。近々。2023/06/07
こうすけ
28
長らく読まなきゃと思いつつ放ってきた本作。平野啓一郎の三島評を聞いて読みたくなり、購入。読みはじめは眠くて失神しかけたけど、話が進むにつれてどんどん面白くなっていった。第一部は許されざる恋物語。いくらなんでも皇族の婚約者はタブーだ。清顕の祖母や門跡のキャラクターがよい。第二部はどんな物語になるのだろうか。2024/03/16
ともっこ
28
お正月から読み始め、三島由紀夫の生誕日の1月14日に読み終わることができた。 高貴な世界で繰り広げられる、激しく燃え上がる禁忌の恋。 輪廻転生など仏教色が強く、かなり挑戦的な問題作であると感じた。 三島は『豊饒の海』を最期のライフワークとしたらしいが、輪廻転生という観念を信じたい気持ちがあったのだろうか、などと考えた。2023/01/14
NICKNAME
28
4部作豊饒の海の1作目了読。これらの4作は不思議な形で繋がっている物であり、すべてを読むには長い読書になりそうだ。この作品の主人公は華族に生まれ何事にも非常に恵まれ過ぎていて、ある意味腐っているのではないかという感じで読みながら、主人公に対しては怒りを覚えるのですが、最終末の方に行くと哀れみを感じてしまうのです。2部の作品は既に入手しているので早速読みたいです。2021/12/10
ホースケ
26
【再読】さながら絢爛豪華な絵巻物を堪能した気分とでも言おうか。結末を知っているからこその一言一句が味わい深い。以前読んだ時は清顕と聡子の悲恋物語としての印象ばかりが強かったが、今回は、その周囲の人間の醜悪な部分や滑稽さが目についた。体面を保つためには、権力や財力を余す所なく使用する侯爵や、したたかな蓼科、優雅さの裏にある暗い面を持つ伯爵などの人物像に興味をひかれた。そして、剃髪した聡子と父親である伯爵が冬のひだまりの縁先に対座する場面が忘れられない。「柿も鳥に啄まれて、熟して、落ちるだけだ。拾う者もない」2022/07/16