内容説明
二・二六事件で逆賊と断じられた親友を討たねばならぬ懊悩に、武山中尉は自刃を決意する。夫の覚悟に添う夫人との濃厚極まる情交と壮絶な最期を描く、エロスと死の真骨頂「憂国」。16歳の実質的デビュー作「花ざかりの森」、著者の生涯にわたる文学的テーマを内包した「中世に於ける一殺人常習者の遺せる哲学的日記の抜萃」等13編。多彩な魅力の自選短編集。
著者等紹介
三島由紀夫[ミシマユキオ]
1925‐1970。東京生れ。本名、平岡公威。1947(昭和22)年東大法学部を卒業後、大蔵省に勤務するも9ヶ月で退職、執筆生活に入る。’49年、最初の書き下ろし長編『仮面の告白』を刊行、作家としての地位を確立。主な著書に、’54年『潮騒』(新潮社文学賞)、’56年『金閣寺』(読売文学賞)、’65年『サド侯爵夫人』(芸術祭賞)等。’70年11月25日、『豊饒の海』第四巻「天人五衰」の最終回原稿を書き上げた後、自衛隊市ヶ谷駐屯地で自決。ミシマ文学は諸外国語に翻訳され、全世界で愛読される(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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kaoru
83
『国宝』つながりで三島と親交の深かった中村歌右衛門をモデルにした『女方』を読む。「あやめぐさ」の一節がひかれ三島らしい流麗な美文で稀代の女形の優婉な芸術と人となりが描かれる。歌右衛門こそ三島が愛した日本の美の一つの頂点であり、若い演出家は彼が嫌った戦後日本の象徴かとも取れる。『海と夕焼け』『詩を書く少年』など彼にとって切実なテーマを扱った作品、自決を予感させる『憂国』が収められた三島最後の短編集。映画『国宝』の李相日監督は最初に歌右衛門をモデルにした作品を企画したが挫折し、抱き続けた歌舞伎への思いが→2025/07/06
キムチ
63
三島の是非が全て投入されている1冊。とはいえ「憂国」が怒涛過ぎて「卵」以外、脳に染み入っていない。死への憧憬の道に踏み込んだ歴史がない私には理解を越えた語の連発。一語一語が研ぎ澄まされている。青年将校暴走後の出来事‥武山と麗子の自死。白と紅が情念の世界で広がる。ふと、ヴィスコンティを思い出した。耽美というか己あるのみ、世界は既に閉ざされ、繭の中で完結している様。「夫の既に領有している世界に加わる事実の喜び。生と死を分かつものが精神的に融解している。。執筆時1960・・ミシマはあの世界へ歩き出していた感じ。2024/10/18
けぴ
52
16歳で初めて書いた小説『花ざかりの森』をはじめとした自選短編集。『遠乗会』、『橋づくし』など欧米の洒落た雰囲気のあるものから、『卵』、『百万円煎餅』などはちゃけた感じのものまでバラエティー豊か。しかし群を抜く存在感は『憂国』。ニ・ニ六事件をモチーフに軍人夫妻の自決までを色濃く艶やかに描く。三島自身も、「三島のよいところ悪いところすべてを凝縮したような小説」と表現している。この短編のみを読むことでも十分な一冊。2021/12/22
活字の旅遊人
48
村田沙耶香のあとは三島由紀夫を読みたくなる。なんでだろう? 表題作の一つである『憂国』は圧倒的な美しさと強さを感じる作品だった。少し前に読んだ『英霊の声』とともに、三島由紀夫の中身の一端を明確に表現していると思う。一方『花ざかりの森』はなんだかこねくりまわした若造の文章という印象で読み返しても馴染めず。『憂国』以外では『遠乗会』『橋づくし』『女方』『詩を書く少年』が好きだな。『卵』『月』は頑張って書いたけど……という本人解説通りの感想をもった。こういう作品もあるんだあ、と驚きつつ。2022/08/03
セロリ
42
最初の2編を読んだときは、最後まで読めるか心配になったけどその後の10編は良かった。最後の『月』はそうでもない。『憂国』がイチオシなのだろうが、戦前の切腹文化が嫌いなので、自刃に陶酔する中尉と彼に従う自分に陶酔する妻が、ひどく滑稽に見える。しかし、腹を切るところから死に至るまでの描写はすごい。生々しい。その死に様は、美しくもカッコよくも書かれておらず好感が持てる。美しい死なんてない。わたしは『女方』が一番好きだ。女方の役者に惹かれる男が幻滅を感じると同時に嫉妬している自分を自覚する終わり方がいい。2022/04/08