内容説明
クオイルは無器用な三十男。大学を中退、三流新聞に拾われるが解雇されてしまう。初めて出会った女に夢中になり結婚するが、浮気をし放題の性悪女で挙句に事故で死んでしまう。父と母も借金を抱え自殺。残されたのは二人の娘だけ。彼は人生をやり直すために娘達と唯一の血縁の叔母を伴い、父祖の地ニューファンドランドへ渡る。そこには一族の名前が付いた岬があり、叔母が数十年前に捨てた家があった。クオイルは地元の新聞に船の情報―港湾ニュースを書く記者として雇われ、島の生活を始める…。全米図書賞&ピュリッツァー賞をW受賞。ハートランド賞、アイリッシュタイムズ賞など各賞を総ナメし、PW誌1位に輝いた感動の小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
137
ストーリーが、だんだんと変幻して行く。不幸でしかない男、お人好しだけの男、短い幸せな恋愛から苦しむ片想いを存分に味わった男。そんな男が、ある日一族の故郷の島に移ってから、なんとなく生活が変わっていく。随所にある奇跡やフジギな出来事。色んなことをひっくるめて、とても素晴らしかった。そう、びっくりすることもそこで起きれば、港湾(シッピング)ニュース。人生賛歌のお話だと思う。2017/05/19
まふ
106
カナダ北東端のニュー・ファウンドランドを舞台にした男とその家族の心温まる人間物語。主人公はデブで醜く知力も体力も劣り、どうしようもない、と最初から著者に釘を刺されたような男であり、何をするにもうまくいったためしがない、という設定だったが、その彼クオイルは女房に逃げられ、一族の発祥地であるニュー・ファウンドランドに子供たちとともに新規まき直しの大移動を決行する。現地では地元の新聞記者になり次第に実力を蓄えて立派な人となってゆく…。⇒2024/08/20
NAO
75
ニューヨークでの生活に挫折した主人公が父祖の地に戻って再生する話。厳しいニューファンドランド島の自然。その中で生きる人々の暮らしは厳しく閉塞感もある。クオイルの周囲には、彼を悩ませ、困らせるようなことが次々と起こるが、それは、もちろん、世界を驚かせるほどのことではない。陳腐だと言ってもいいほどだ。それでも、淡々とつづられる文章は、静かに心にしみこんでいく。2018/12/25
syota
35
不幸な結婚の末に妻も仕事も失った男が、二人の子供を連れて都会から父祖の故郷ニューファンドランド島の小さな港町に移り住む。地味なストーリーだが、じんわりと心の襞に染み入ってくるいぶし銀の魅力がたまらない。荒涼とした北の海辺の、手厳しく荒々しい自然。港町の荒っぽいが心優しい人々。過去のトラウマに囚われた生真面目で不器用な中年男が、少しずつ地域に溶け込み新たな人生を歩み始める。大胆に切り詰められた短く畳み掛けるような文体も、内容にマッチしている。読書の楽しみを心ゆくまで味わうことのできた一冊。2023/05/21
kasim
34
厳しい気候にさらされる漁師の土地ニューファンドランド。不実な妻に死なれ幼子と残された不器用な大男クオイルが、行ったこともない父祖の地で新生活を始める。人情に厚い平和な田舎などではなく、暴力や横死も隣り合わせだが、かといって殺伐としているわけでもなく、軽いユーモアを漂わせていつまでも読み続けられそう。海の男たちは全盛期にはそれなりの暴れ者だったのだろうけど、今や皆ご老体で、若い世代は郷里に見切りをつけて都会へ出ていく。そんな通常の動きと逆向きに入って来た主人公の再生をゆったり描く傑作。2025/04/15