内容説明
五歳のころ、放浪癖のあった父親と同居することになり、程なく、花村少年の地獄の日々がはじまった。『モルグ街の殺人事件』を皮切りに、古今東西の古典を読まされる毎日。飽きる素振りをみせれば、すぐさま拳が飛んできた―。四年にわたる狂気の英才教育の結果、岩波文庫の意味を解する異能児へと変貌した小学生は、父の死後は糸の切れた凧となり、非行のすえに児童福祉施設へと収容された。以来、まともに学校に通った記憶がない。本書は、芥川賞作家・花村萬月が、これまでの人生で唯一受けた教育の記憶をたどり、己の身体に刻み込まれた「文章作法」の源泉に向きあった、初の本格的自伝である。
目次
あなたは父が好きですか
父は他人
それは山谷の旅館からはじまった
父の人柄
父が現れた!
早期教育
筮竹
読書の時間
父の芸術教室
課外授業
父自身のこと
断片的であること
父の死後
教育と強制
キリスト教
父の愛
母の愛
そして現在
著者等紹介
花村萬月[ハナムラマンゲツ]
1955年東京生まれ。サレジオ中学卒。89年『ゴッド・ブレイス物語』で第二回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。98年『皆月』で第一九回吉川英治文学新人賞を受賞。同年、大長編『王国記』の序にあたる『ゲルマニウムの夜』で第一一九回芥川賞を受賞
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
カザリ
39
勉強のスパルタを受けた子供はけっこういるけど、その結果、東大とか医者になる程度のまともな人間になってしまうあたり、あくまでもよくある知識詰め込みの教育なのかなと思う。幼いころの読書はたしかに著者の思考や文章のうまさに表れていると思うんだけど、それだけじゃない気もする。年端もいかないうちの教育をその後、自分から進んで課すようになったときに、才能の有無が発揮されるんじゃないかな。教育はあくまでもきっかけにすぎないと思う。はまるかはまらないかは、その人間の器かな。2016/07/09
James Hayashi
23
小説の書き方でも教えてくれるのかと想像していたが、実は著者の特異な自伝というか、父との関係とスパルタ教育。以前は遊び人で小説家になった事にラッキーな人と思っていたが、その実力は少年時代に養ったものらしい。ピリピリした父子関係。まともに小学校も出ていない著者が、絵の才能を見抜かれ父親に英才教育を施された。あまり読書もせず新聞も読んだことがないというが、知識は持ち合わせている。この親にしてこの子あり。努力しても彼の足元にも及ばないと痛感した。2016/01/05
James Hayashi
20
コンピュータやAIに勝つには、均一化された教育など必要でない。いかに優れた才能を伸ばすか。そんな教育の本質がじわじわ伝わってきた。再読。2021/04/12
KAZOO
15
子供のころの父親との葛藤がよく書けていると思いました。すごいスパルタ教育であったことがわかります。父親の死後は、花村さんのよく書いている小説のような生活になったようです。しかしながら幼少時のつめこみが将来にも役立ったということでしょう。2014/04/17
i-miya
9
ドヤ街、山谷。ドヤはヤドをひっくり返した言葉。正男さん=父、出産費をなんとか、と母、しかし逃げた父。実は私も逃げ出す血、なのです。美術出版社『見えるものとの対話』(ルネ・ユイグ)、中山公男・高階秀爾訳がおすすめとのこと。17歳のときに読んだ、言語の抽象性の高さ、絵画と言葉。2009/07/03