内容説明
18歳の草壁総次郎は、何の前触れもなく致仕して失踪した父・藤右衛門に代わり、町奉行となる。名判官と謳われた祖父・左太夫は、毎日暇を持て余す隠居後の屈託を抱えつつ、若さにあふれた総次郎を眩しく思って過ごしている。ある日、遊里・柳町で殺人が起こる。総次郎は遺体のそばに、父のものと似た根付が落ちているのを見つけ、また、遺体の傷跡の太刀筋が草壁家が代々通う道場の流派のものではないかと疑いを持つ。さまざまな曲折を経て、総次郎と左太夫はともにこの殺人を追うことになるが、果たして事件の真相と藤右衛門失踪の理由とは。
著者等紹介
砂原浩太朗[スナハラコウタロウ]
1969年生まれ、兵庫県神戸市出身。早稲田大学第一文学部卒業。出版社勤務を経て、フリーのライター・編集・校正者となる。2016年「いのちがけ」で第2回「決戦!小説大賞」を受賞。2021年『高瀬庄左衛門御留書』(講談社・現在、講談社文庫から刊行中)で第34回山本周五郎賞と第165回直木賞の候補となる。また同作にて第9回野村胡堂文学賞・第15回舟橋聖一文学賞・第11回本屋が選ぶ時代小説大賞を受賞、「本の雑誌」2021年上半期ベスト10第1位に選出。2022年『黛家の兄弟』(講談社)で第35回山本周五郎賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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夢追人009
304
初読み作家・砂原浩太朗さんのミステリー時代劇の秀作です。町奉行を家職とする草壁家の引退した名判官の祖父・左太夫、突然謎の失踪を遂げた父・藤右衛門、18歳で父に代わって初めて大役を任された息子・総次郎が、父の失踪の理由と複雑怪奇な殺人事件の謎を追う。優秀な父と平凡な子との教育問題・人間関係の難しさという中々に厄介なテーマが本書の根底にあります。事件の影に姿を見せる父・藤右衛門の真意は?ベテランの祖父・左太夫が未経験の孫・総次郎を助けながら意外な真相に迫ります。時代劇特有の濃厚な人情味に見事に騙されましたね。2023/09/11
パトラッシュ
196
神山藩シリーズの新作は、変わらぬ硬質な文体と静謐な世界観で物語に没入させてくれる。父の突然の隠居と失踪で、18歳で町奉行を継ぐことになって困惑する総次郎の前に家中の権力抗争が浮かび上がり、複雑に絡んだ謎と人間関係が殺人事件をきっかけに追求していく。お世辞にも頭が切れるタイプではない総次郎だが、祖父や友人に助けられて真相に迫る姿は不器用な素人探偵の風情だ。信頼と裏切りと慕情、二代にわたる父と子の葛藤に金と力を求める欲望が加わり、世の仕組みを罪と悟った総次郎の成長記に重なった時代ミステリとしても面白く読める。2023/08/24
hiace9000
166
波乱激動に富む物語を、流れるような美しい文体に慎ましく凛然たる静謐を満たし綴る、「ザ・砂岡時代小説」に酔い、耽読。失踪した父に代わり18歳で町奉行の任に就いた草壁総次郎、祖父で元奉行・左太夫ら武士として生を受けたる者の宿命と矜持。神山藩三作目、物語としての連続性こそないものの、主題はやはり時代を経ても変わらぬ父子の間の微妙な関係性や距離感ーか。息子が父に抱く尊敬と対抗心に由来する嫌悪の念、父が息子を愛でる情愛と冷徹に見極める行先への期待と勝算…それら複雑な情を、季節に移ろう自然美に見事重ねる描写力は圧巻。2023/10/26
修一朗
161
神山藩シリーズの第3弾。読むまで気がつかず。前作から30年ほど経った神山藩。富有里湊はやっぱり「本間様には及びもないが」の酒田のイメージだ。藤沢周平の海坂藩のように神山藩の地図もできそうだ。一貫して家に縛られ枷をかけられた武士の覚悟の物語。祖父はお役目を全うし父は御勤めを貫けなかった。端正な文章を堪能できるが花の名と鳥の名が遠慮なしに出てくるし池上正太郎ばりの酒の肴もある。神山シリーズ続くとしたら,次はみやが中心になるかな。総次郎は隠居してその子供が登場しそう。これも続きそうだ。2024/03/24
KAZOO
148
この作者の神山藩シリーズ最新作の第3弾目です。今回は町奉行の祖父、父、孫の三代にわたる物語です。父親が隠居願を出しその子供が10代で町奉行となります。それを補佐する年上の部下や同年代の友人の助力などで殺人事件に絡む陰謀などが明らかになります。最後はすべてよし(友人もいいところへ婿に入ります)のハッピーエンドでした。もう少しこみった話があると期待したのですが。2023/11/27