内容説明
大正13年。鳥取県鳥取市。女性の地位向上を目指し「新しい女」の潮流を訴える「女流作家」田中古代子は、娘の千鳥と内縁の夫の3人で、友人の尾崎翠もいる東京に引っ越しをする予定を立てていた。移住直前、活動写真「兇賊ジゴマ」の観劇中、場内で火事が。取り残された古代子と千鳥が目にしたのは、舞台上に立つ本物の「ジゴマ」だった!目の前で「ジゴマ」は躊躇なく、人を殺す。やがて二人にも―。もう何も信じられない。「激動の時代」を生き抜くため、そして凶刃から逃れるため、母と娘は「探偵」になるしかなかった。息つく暇など、一切なし!第69回江戸川乱歩賞受賞作。
著者等紹介
三上幸四郎[ミカミコウシロウ]
1967年鳥取県生まれ。慶應義塾大学卒業後、3年間のサラリーマン生活を経て、脚本家に。これまでに、数多くのテレビドラマ、アニメの脚本を執筆。2023年「蒼天の鳥たち」(刊行時『蒼天の鳥』に改題)で第69回江戸川乱歩賞を受賞し、小説家デビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
200
江戸川乱歩賞受賞作を毎年楽しみにしています。本書は兇賊ジゴマ・ノスタルジー・ミステリでした。著者はベテラン脚本家で文章は巧く作品の完成度は高いですが、ミステリ色は薄め江戸川乱歩賞受賞作としては微妙な感じでした。 選考委員の貫井徳郎の意見に一票、今回は受賞作なしで良かったのではないでしょうか❓ https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=00003685842023/09/16
パトラッシュ
134
実在の人物が探偵役を務める乱歩賞作品は4作目だが、過去の3作に比べスケールが小さい感は否めない。田中古代子と千鳥は知る人ぞ知る存在だし、歴史に深く関わる事件でもない。大正時代の「新しい女性」たらんとする古代子の心情や、当時の鳥取や活動写真の口上など風俗描写も上手いが、どうしても佐藤賢一や梶よう子の伝記小説に比べてしまう。しかも肝心の謎解き部分が弱く、尖った部分がないので読後感は今ひとつだ。故郷の風土と人を書きたい意欲は買うが、ミステリとしては曖昧になってしまった。いっそ尾崎翠を主役にした方が面白かったか。2023/09/14
しんたろー
134
三上幸四郎さんは20年程前に何度も仕事をした脚本家さん…乱歩賞を受賞したと知り、お祝いの気持ちを込めて購入…「彼らしいなぁ」という台詞と「おっ、小説家ぽいなぁ」という文章がミックスされていた。ご出身の鳥取を舞台に実在の人物を核にした物語から、その熱い想いが伝わってきた。大正の描写も好いアクセントになっていて小説としては充分に楽しめた。ただ、乱歩賞に対する私の期待からするとミステリが「後だしジャンケン」的に感じたのが大変残念。女性の描き方が良くも悪くも「当時と変わってないなぁ」という印象なのも...惜しい。2023/08/31
hiace9000
132
「江戸川乱歩賞受賞作」触れ込みで手に。大正時代の活動写真上映会(弁士の声高な弁舌を奮う口上を伴い、モノクロームでカタカタ動く映像のあれ)を地で行く、“クセ"と独特の"味のある"筆致。作者ご出身の鳥取県を舞台にした作品を描きたかった熱意は十分に伝わってくる。ミステリーとしてはある意味「異色」。それは実在の人物が数多く登場し、その一人の生き様を通した視点から語られる奇譚だからだ。(帯の惹句にはそれを付記すべきだろう。)受賞作ゆえ、巻末にはいつもの如く選者評も載せられるが、個人的には貫井徳郎さんの評に同意する。2024/03/04
タイ子
90
江戸川乱歩賞受賞作品。時は大正、舞台は鳥取。主人公は実在の人物で作家の田中古代子。と言っても知らなくて最初は作品内の人物かと思っていたら、彼女の周りの人たちの名前が有名なので途中で調べたら実在の人でした。一緒に探偵役になる7歳の賢娘も実在で、いわゆる実在の人物たちを背景にフィクションの物語が描かれてるわけです。この時代だから活きてくる物や、背景、そして彼女の周りで起きる殺人事件が何だかノスタルジックでそれも受賞の一因なのかなと。しがらみの多い時代に夢と希望を抱く人たちの大いなる野望の物語。2023/12/30