出版社内容情報
【紀伊國屋書店チャンネル】
二年前、東北で横死した劇作家兼演出家の破月悠高。妻の久代がその未完成の遺作を発見した。学生時代に夫妻も所属していた劇団NTRをモデルにしたその戯曲を読んだ久代は、同じく劇団員だった鷹野裕に声を掛ける。「裕、あの戯曲の続き書かない?」
相談の結果、元劇団員たちがそれぞれ好きな形式で文章を寄せることになった。作品集のタイトルは「ヒカリ文集」。劇団のマドンナであり、あるとき姿を消してしまった不思議な魅力を持った女性、賀集ヒカリの思い出が描かれてゆく。
『親指Pの修業時代』『犬身』『最愛の子ども』……そして新たな傑作が誕生!
内容説明
学生劇団で男とも女とも恋を重ねたヒカリは何者だったのか。六人の男女が語る「優しくて悲しくてとてつもなく魅力的な偽物の恋人」。“宿命の女”のイメージを塗り替える新・恋愛小説。
著者等紹介
松浦理英子[マツウラリエコ]
1958年、愛媛県松山市生まれ。青山学院大学文学部卒業。1978年「葬儀の日」で第47回文學界新人賞を受賞しデビュー。1994年『親指Pの修業時代』で第33回女流文学賞、2008年『犬身』で第59回読売文学賞、2017年『最愛の子ども』で第45回泉鏡花文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
180
何とはなしに読みました。松浦 理英子、初読です。自由奔放なヒカリに纏わる元劇団員たちの文集、確かにヒカリは魅力的な女性ではありますが・・・ https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=00003646412022/06/08
buchipanda3
104
著者初読み。余計な気負いのない洗練された文章が好みのもので、著者が描く赤裸々ながら無垢で繊細さを持つ世界観にスッと入り込んだ。本作には男女6名の書き手が登場するが、それぞれ違う読み味の文体を見せて面白味があった。そして各人の語りで浮かび上がるファム・ファタール的な存在、ヒカリの姿。どこか無機質なようで惜しみない情愛を捧げてくるアンバランスさ。それは自己への戸惑いという呪縛を共有できる相手を探し求めているかのよう。誰をも魅了したその笑顔は本当は彼女自身に向けたものだったのかも。舞台に切なさと愛おしさが残る。2022/03/02
konoha
70
余計なところがなく、きれいな文章。ヒカリに恋した男女がそれぞれの視点からヒカリを語る。恋の話なのに不思議と恋愛小説っぽさがない。ヒカリは誰も愛さず、短期間で別れてしまうが、ドロドロすることもなく軽やか。最初の章が戯曲なので少し読みづらいが、あとは読みやすかった。読者によって感情移入する対象も違うのではないだろうか。朝奈と久代の章が印象的。ヒカリとのささやかなエピソードや会話にリアリティーがあった。書くことに迷いがなく、潔い作品。タイトル、表紙も良い。2022/03/25
yumiha
53
ヒカリって、いったいどんな人間だったのだろう?それぞれに関係を持った6人の男女の語りからは、掴めそうで掴めない人間像。もてなし人?ロボット?介護人?「紗幕の向こうにリアルなものがあると感じさせる演技」は、読者(私だけ?)をもどかしく翻弄する。全然タイプが違うんだけど、『ティファニー…』(カポーティ)のホリーの今ここでは折り合えない生き難さを想起させる。「生の痛みとしては感じないで済む技」は、『砂糖菓子の爆弾…』(桜庭一樹)の藻屑も想起させる。また、6人の語り手の中では、率直な雪実を友人に選ぶ。 2023/02/08
路地
52
相手が幸せに感じることを完璧な形で提供することで、自分の幸せを探そうとするも見つけられないヒカリ。それは、サークル内で複数人の男女と性愛を交わす、一見すると不道徳にも思える一連の物語も、後半で示唆される大勢に無償の愛を与える将来につながっているのかと思う。当事者たちが文集の形式で1人の女性との思い出を持ち寄る物語が新鮮に感じた。2023/04/18