内容説明
大学院生の町村と指導教員の宇賀神は、ニセ科学批判の急先鋒・蓮見教授にある事実を知らされる。深海パワーが、がんを治すというニセ科学商品の開発に、宇賀神が想い続ける研究者・美冬が手を貸した後、消息不明だと。なぜ美冬は怪しいビジネスに加担したのか?理性と感情が交錯するサイエンス・サスペンス。
著者等紹介
伊与原新[イヨハラシン]
1972年大阪府生まれ。神戸大学理学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科で地球惑星科学を専攻。博士課程修了後、大学勤務を経て、2010年『お台場アイランドベイビー』で横溝正史ミステリ大賞を受賞しデビュー。2019年に『月まで三キロ』で新田次郎文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
149
人は信じたいものを信じ、信じるものをけなされたり批判されると意固地になって一層傾倒していく。そんな人の感情に付け込んで人を欺き金儲けを行う疑似科学に対し、正当な科学を信奉する側が科学を汚染する連中の偽りを理性で暴こうと対決するドラマが展開する。しかし「人は感情の生き物であり、理性で啓蒙しようとする科学者は反感を買うだけ」と断言する疑似科学の事業家のセリフは真実であり、ヒトラーやトランプを支持する大衆心理に通じる。探偵役の教授がコミカルな設定なので思わず笑ってしまうが、人類の未来を考えると笑っていられない。2024/04/15
Kanonlicht
58
今回直木賞受賞の著者が2018年に発表した科学ミステリ。タイトルから勝手に化学テロや医療ミスを予想して読んでいたら、全然違った。世間にあふれる「科学的根拠はないけれど、それっぽい研究成果を謳った商品」は疑似科学もしくはニセ科学と呼ばれる。そんな商品を扱う企業で一人の女性研究者が失踪し、彼女の同期の助教授とその助手の院生が行方を追う。疑似科学の存在自体が許せないという科学者と、自分が効果を実感できるものなら科学的根拠の有無は関係ないという世間の認識のズレは、なるほど興味深い。2025/02/10
名古屋ケムンパス
52
科学を騙ってその効能を信じ込ませ、商品を売りつける「ニセ科学」業者。「大半の人間は『合理的で理性に訴える説明』よりも『非合理的だが感情に訴える説明』を選択する」のだそうです。物語は新進気鋭の生物学者の宇賀神が、ライバルで恋人の研究者・美冬の禁断の「ニセ科学」業者の研究室に就職し、そのうえ失踪してしまう謎を追うことで展開するミステリー。物語の結末は科学的な解になって見事に回収されていますが、人の行動の非科学さは解明されずに残ったままです。2022/08/13
venturingbeyond
48
2025年1冊目。ドラマ化もされた『宙わたる教室』が評判の伊与原新の旧作を、午後から一気読みで読了。年末の大阪出張でもらって帰ったであろうインフルエンザで、2日から臥せってましたが、昨日から熱も下がり、ベッドでゴロゴロしながらの読書となりました。 確信犯的な偽科学(疑似科学)ビジネスをテーマにしたミステリーで、切れ者・宇賀神のキャラクターが、少々定型的な感じもしますが、リーダブルな一冊でした。教育も啓発もなかなか簡単にこの手の問題を解決するのは難しいでしょうが、モグラ叩きを続けるしかないのでしょう…。2025/01/07
Walhalla
36
私自身、伊与原新さんの作品は2作目です。『八月の銀の雪』がとても良かったので、こちらも手に取ってみました。科学と疑似科学が様々な角度から描かれていますが、そこに人間の期待や夢といった感情が加わることで、何が良くて、何が良くないのか、その境目って難しいのだと思いました。「突きつめ過ぎると、極端な話、神社で御守りの一つも買えないことになる」とあるように、科学的根拠はどこまで必要なのか、自分でも分からなくなりそうですが、「科学というのは学べば学ぶほど人を謙虚にする」の言葉でストンと腑に落ちた気がします。2024/08/29