出版社内容情報
加藤 典洋[カトウ ノリヒロ]
著・文・その他
與那覇 潤[ヨナハ ジュン]
解説
内容説明
「人非人でもいいじゃないの。私たちは、生きていさえすればいいのよ。」(「ヴィヨンの妻」)。四度の自殺未遂を経て、一度は生きることを選んだ太宰治は、戦後なぜ再び死に赴いたのか。師弟でもあった二人の文学者の対照的な姿から、今に続く「戦後」の核心を鮮やかに照射する表題作に、そこからさらに考察を深めた論考を増補した、本格文芸評論の完本。
目次
太宰と井伏―ふたつの戦後
太宰治、底板にふれる―『太宰と井伏』再説
著者等紹介
加藤典洋[カトウノリヒロ]
1948・4・1~。文芸評論家。山形県生まれ。1972年、東京大学文学部卒。国立国会図書館勤務を経て、86年、明治学院大学助教授。90年、同教授。2005年、早稲田大学教授、現在、同大学名誉教授。85年、『アメリカの影』で文芸評論家としてデビュー。97年、『言語表現法講義』で新潮学芸賞受賞。98年、『敗戦後論』で伊藤整文学賞受賞。04年、『テクストから遠く離れて』『小説の未来』で桑原武夫学芸賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ケイ
130
太宰は最期に井伏鱒二に対して悪人だと書いていた。その意味とは? それを受けて井伏はその後をどう生きたか。『人間失格』を読み込むことで見えてくること。太宰が自殺しようとした理由を探しながら、著者加藤氏が行う分析。さらに太宰のところにいわば殴り込みに行った三島由紀夫が『人間失格』に対して何も語らなかったことについて言及し、三島が『人間失格』から受けた影響から『仮面の告白』を書いたのだと結論づけていく。170ページほどが元のコアの部分で、あと100頁はいくつもの後書きや解説、さらに加藤氏の年譜が続く。再読必須。2019/08/05
佐島楓
65
〈大学図書館〉太宰と井伏の関係が太宰の晩年には決裂していた(そういえば、太宰の遺書に井伏を糾弾する内容が書いてあったのだった)という決定的な証拠、それ以上に自死に影響を与えたのではないかとされるいくつかの論点に深い衝撃を受けた。また太宰に影響を受けた三島の存在、師弟関係においてこちらも決裂を見た三島と川端との関係とのリンクなど、終始鳥肌が立つ読書だった。この本は入手しておきたい。2019/07/09
ころこ
36
太宰論は、表向き著者の敗戦後論の一部を発展させているようにみえます。再読してみて、以前は全く印象に残っていなかったのは、敗戦後論→太宰論では気にならなかった、太宰論→戦後論にある唐突な感じに置いて行かれたからだというのを思い出しました。太宰があるとき井伏と初代という他者を発見したときの反応と、三島が太宰に触発されて、その後に川端に対した反応の反復は興味深い問題ですが、その基となった「太宰と井伏」は猪瀬直樹『ピカレスク』からの着想です。著者の中では、良い仕事とは言えない部類だと思います。2019/11/19
かふ
20
読んだけどすぐに感想が書けずにいたが、『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』を今日見てきて映画とこの本が重なって見えた。この太宰の別れなければならなかった元妻の小山初代のストーリーが芸者であるリンさん周辺の女性たちのドラマとして見えてくる。小山初代は太宰と心中未遂事件(『姥捨』に描かれている)のあと小山初代と別れるのだが、彼女は戦時中に生きていくために慰安婦(近藤富枝『知らざる太宰治の幼妻』で噂があった)として中国へ渡ったこと。そしてその後心臓発作とも病気を苦に自殺とも言われている。2020/01/02
ゆえじん
3
良き。生き抜いていける「姥捨」の太宰と、もう死ぬしかない「人間失格」の太宰との緊張のあいだで生きる戦後の太宰に、ある女性の死の報告が井伏からもたらされるとき… 加藤典洋は太宰の自死の謎を追求するとともに、もしかしたら死んでいなかったかもしれない太宰の生き方に、戦後のぼくたちの生き方を重ねていく。「慰安婦」というワードが「太宰」と遠く結び付けられるのだが、むしろこのキーワードは現代を生きるぼくたちとこそ縁が深いわけで、どう戦後を生きるかという加藤のテーマを太宰を通じて再認できる。2019/08/27