内容説明
味方のいない異境で助けてくれた少女との交歓、学生時代手もつなげなかった女との再会。仄かな胸の痛みは、いつしか魂を抉る傷となって疼き出す。うつくしくおぞましい愛がいざなう、全8篇の妖美な悪夢の迷宮…。
著者等紹介
田中哲弥[タナカテツヤ]
1963年兵庫県生まれ。小説家。独自の叙情と狂気に溢れた作風をもちながら、活劇、ホラー、SFと縦横無尽に活躍(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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hirayama46
8
これはなかなかすごい奇想短編集。表題作や「隣人」における悪夢よりも悪夢的な抗することの出来ない理不尽さ、「夜なのに」のなんかすごくいい話を読んだような気持ちにさせる叙情の煙といい、素晴らしいです。「はかない願い」は田中啓文の『異形家の食卓』に収録されてそうな短編で、うん、なるほど……。2017/01/03
けいちゃっぷ
3
少し前に読んだ『猿駅/初恋』に比べれば筒井康隆の影もだいぶ薄くなった気もするが、今となっては田中哲弥を買いかぶり過ぎていたか期待しすぎていたのではないかと思えてしまう。掌にすくいあげた砂がこぼれ落ちていくかのように、作品が読んだ端からこぼれていく。それはとても耐えがたく哀しいことではあるけれど。260ページ 2011/12/17
不璽王
3
かなりキツメのエログロ不条理小説集。そのなかにポツリとある「夜なのに」が爽やかな傑作。他、現状の説明に終始する強烈な小品「夕暮れの音楽室」自転車山岳SF「坂の中の坂」啓文ばりのオチ「はかない願い」などなど意欲的な作品多数。読まないと損だけど、読むと後悔する難儀な短篇集2011/07/14
肉田肉美
2
グロと不条理と圧倒的な生理的不快感、歪みに歪んだ時間軸に振り回されて頭の中を撹拌され、しかし読後に残るのは初恋にも似た切なさと奇妙な爽やかさ。おおむね訳のわからない話ばかりなのにいやに叙情的。これこそ文章の魔術。…それにしても、この素晴らしい内容にこの安っぽい装丁はないね。値段が同じで文庫でも喜んで買うから、頼むから普通に出してくれ。早くなくなれ、講談社BOX。2010/11/17
CJ
1
ふだんはギャグに隠れがちな、グロやホラー要素が中心となった短編集。理不尽な状況で主人公が追い込まれていく表題作や「隣人」、徹底して救いのない「おさと」など、気分が悪くなってくるような作品がほとんど。ギャグ要素が濃い「坂の中の坂」もよく考えたら不気味だし、唯一爽やかな「夜なのに」も、近い手法で「従姉の森」の破滅が描かれていたりと、そこらへんも意地が悪い。このうちの何作かはギャグ作品としても書けそうなので、やはりギャグとホラーとは紙一重なのかもしれないということも、ひさびさに思った。2016/12/23