内容説明
喀血に襲われ、世紀末の頽廃を逃れ、サモアに移り住んだ『宝島』の作者スティーヴンスン。彼の晩年の生と死を書簡をもとに日記体で再生させた「光と風と夢」。『西遊記』に取材し、思索する悟浄に自己の不安を重ね,〈わが西遊記〉と題した「悟浄出世」「悟浄歎異」。―昭和17年、宿痾の喘息に苦しみながら、惜しまれつつ逝った作家中島敦の珠玉の名篇3篇を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
hasegawa noboru
23
スコットランド、エジンバラ生まれの、私は読んでいないが『宝島』の作家ロバート・ルウヰス・スティヴンスンは1894年44歳で南洋サモアの地で果てた。その晩年の姿を描くことに重ねて、明らかに中島敦は自らの作家としての在り方を書いている。1942年(昭和17年)中島は喘息で没した。行年33歳。ともに夭折、早すぎる死だろう。<どんな高齢者だって、彼の今後の生活は、彼にとって初めての経験に違いないではないか。悟ったような顔をした老人共を、私は(私自身は所謂年寄りではないが、年齢を、死との距離の短かさで計る計算法に2024/05/10
tieckP(ティークP)
6
他者の伝記という仮面をかぶった私小説。スティーブンソンに仮託しながら、あきらかに中島敦がにじみ出ていて、だからこそ好ましい。終わり方があっさりしているのは玉に瑕。また日記体と物語体が交ざるが、序盤は少し日記体にドライブ感が欠けているようにも思われる。ポスコロ的な興味から論ずるにもピッタリの作品だが、この作品を名作にしているのはひとえに中島敦が文章に仄めかす切実さであって、スティーブンソンを文章を書かずにはいられない人物に設定したのと同じ情熱、同じ宿痾に中島も罹患しているのである。ときには読者も、また。2014/07/17
ベイ丹
5
まずは『わが西遊記』の悟浄出世、悟浄嘆異を課題提出のために読破。悟浄の自己とは何かを模索し続ける『悟浄出世』、三蔵法師と悟空を通じて自己とその病気について煩悶する『悟浄嘆異』 昔は国語の教科書にも採用されることが多かった中島敦の作品も今や『山月記』以外ほとんど採用されなくなってしまった。前に読んだ『李陵』『弟子』など敦の文章は読みにくいものが多いがどれもが強い〈問い〉を含んでいる。 ハードルは高いと思うが是非一度は読んでほしいと思っている。2014/08/12
オフィス助け舟
3
メンタリストDaigoさんの動画で「言語性IQが高いと不安症になりやすい」だったか、そんなコメントを見た。『悟浄出世』の「悟浄が日ごろ憂鬱なのも、畢竟、かれが文字を解するために違いないと、妖怪どもの間では思われておった。」という記載。なるほど合ってるなぁ、と思った。2023/02/19
なおこっか
3
苛烈なまでに人の、そして小説の有り様を追求する中島敦の物語は、舞台が南洋であろうと人物がスティーブンソンであろうと、変質することがない。“小説が書物の中で最上(或いは最強)のものであることを疑わない。読者にのりうつり、其の魂を奪い、其の血となり肉と化して完全に吸収され尽くすのは、小説の他にない。”こうした言葉を読む時、最早ツシタラ・スティーブンソンと中島敦は完全にシンクロしていると感じる。痛々しいまでに肉体と精神を軋ませながらも、強くあげられた視線に、くらくらする思い。2019/01/28
-
- 和書
- ゆうれい船 ポプラ社文庫




