内容説明
壇ノ浦の合戦で源氏の荒武者に捕らわれ、出家して京の大原の里に篭った建礼門院―。彼女を後白河法皇が訪ねる「大原御幸」では、自分の数奇な人生を地獄・畜生などの六道になぞらえて語る。それは、仏に仕える聖女の祈りなのか、愛欲に生きた美女の懺悔なのか、あるいは愛児の天皇を海に沈めてしまった母の苦悩なのか。好奇の眼にさらされ、さまざまな憶測を呼んでいた彼女に、『平家物語』が語らせたものは何か。建礼門院のつくられたイメージと秘められた謎を明かす。
目次
序章 建礼門院はどこにいるのか
第1章 建礼門院の生涯
第2章 建礼門院の六道語り
第3章 憤る女院、苦悩する国母
第4章 建礼門院説話と小野小町説話
第5章 畜生道と中世の女性説話
終章 その後の建礼門院
著者等紹介
佐伯真一[サエキシンイチ]
1953年生まれ。同志社大学文学部卒業。東京大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。博士(文学)。専攻は中世文学(軍記物語など)。現在、青山学院大学文学部日本文学科教授。著書に『戦場の精神史 武士道という幻影』(日本放送出版協会、2005年第三回角川財団学芸賞を受賞)など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Toska
19
建礼門院徳子という歴史上の人物が何を語ったのかではなく、物語が彼女に何を語らせたのかを探る。いかにも文学の研究者らしいアプローチ。中世においては、事実を肉付けして物語ができるとは限らず、逆に物語のパターンが先行し、そこへ事実(実在の人物や事件)を落とし込んでいく場合が多い。建礼門院の他、卒塔婆小町や和泉式部などの例を挙げてこれを証明していく著者の鮮やかな手腕。同時に、女性の「罪業」を強調する中世仏教的な世界観の残酷さも感じた。2024/11/30
うしうし
3
市民図書館本を借読み。『平家物語』中に描かれる健礼門院説話をテーマに「落魄した女性を神聖化する心性の底」(p189)にある複雑な人間の心のメカニズムを追及する。国文学者の著作を真面目に読んだのは初めてであるが、大変興味深かった。2015/04/25
wang
3
かつて最高位の女性として多くにかしずかれ欲するところ全てかなえられた建礼門院徳子。源氏の世に成りただ一人身よりもなく落ちぶれた後。人々がどのように評したのか。彼女に仮託して何を語ろうとしたのかを探求する。日本では王朝革命がなかったので前代の王家の人々が打ち捨てられることがなかったというが、天皇の母が落ちぶれ貧窮し好奇の目にさらされながら生きながらえたというのは悲惨な歴史だ。2012/11/25
たらら
3
平清盛の娘、高倉天皇の女御にして、壇ノ浦に入水した安徳天皇の母、中宮徳子こと建礼門院。平家滅亡後も生き長らえ、平家物語の最後に生きながらすべての地獄・六道を見てしまったと語るこの女性こそがこの長い長い物語をくくる主人公だったのか! と興奮しながら読了。小町伝説との関係、近親相姦をほのめかす「畜生道」の真意、禽獣から聖女への転換をさぐる後半は圧巻。うーん、これは平家物語を読み通さないと。2009/10/02
(ま)
1
京都 大原 寂光院♪2017/12/25