内容説明
ホームからは見えない電車の下半分。ここには人の命を預かる車両整備に誇りと夢と人生をかける男たちのドラマがあった。ひきこもりの青年が出会った、一筋縄ではいかない油まみれの武骨な面々。様々な過去を背負いつつ、ひたむきに仕事に打ち込む職人たちを前に、青年は少しずつ殻をはがしていく。そんな彼らを、大規模な脱線事故が襲う。消えゆく旧型車両と運命をともにする男たちのたぎるほどに熱い生き様を描く感動長編。
著者等紹介
山田深夜[ヤマダシンヤ]
1961年福島県須賀川市生まれ。地元の高校を卒業後、神奈川県横須賀市で私鉄職員として約20年勤務。99年7月、文筆業に専念するために退職。『電車屋赤城』が第29回吉川英治文学新人賞候補作となり話題を呼んだ(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
七色一味
65
読破。平置きされてた表紙の、なんとも言えない──『トラック野郎 爆走一番星』的雰囲気に、思わず手にとってしまった。その表紙以上にがっつり骨太な作品の舞台は、海風の似合うキラキラ眩しいヨコハマではなく、無骨な、米国太平洋第7艦隊のベース、ヨコスカ。主人公も、主人公を取り巻く「をとこ」達も妙に任侠的、菅原文太や高倉健と言った猛者連中。そして、どストレートに胸を打つ「をとこ臭い」お仕事小説です。結構オススメです^^2013/11/24
へくとぱすかる
61
最初からグイグイと物語に引き込まれる。こんなに読ませる力が強いのは小説として驚異。何と言っても鉄道ファンにはたまらない現場の世界を描きながら、マニアックに陥らず、あくまで人間のドラマを描く。タイトルになった赤城だけではなく周辺のすべての人にドラマ性を持たせているのだから、読んでいて息つく暇もない。なんとあの加藤まで、後半はがらりと変貌していくのだ。ラストへのストーリー性よりも、人物の生々しさだけで十分読者の心を動かす。2014/07/06
mr.lupin
60
鉄道車両の整備に携わる人達の物語。主人公は赤城だが、赤城自身がそんなに多くを語る訳でもなくその周りの人々の人間ドラマが描かれている。最初は何だかとても暗い話かと思っていたが、読み進めるうちに赤城の男臭さや職人気質がヒシヒシと伝わってきて、十分に楽しむ事ができた。できることなら、もう少し赤城のプライベートな部分などが明らかになると良かったかも。純一の今後やユカリとの関係とか続篇が出たらまだまだ楽しめそうな一冊だった。最後に時代はやっぱり移り変わっていくものだなとしみじみ感じた。 ☆☆☆☆☆2020/10/01
saga
35
著者が京急に勤務していたという経歴から、電車の仕組のやけに詳細な記述に得心がいった。鋼鉄ボディの1000系とアルミ合金の3000系の違いは、最終章の地震被災による脱線事故でも語られるが、私はJR福知山線事故を思い出さずにはいられなかった。題名からして赤城が主人公のはずだが、冒頭に出てくる引きこもりの純一に、今の自分の境遇と重ねて思うことが多かった。手に職を持ち作業に汗水たらす、そんな誇れる職業は素晴らしい。2015/08/22
はつばあば
28
ちゃちな人間をしっかり矯正してくれるような本で感動を覚えました。時代の移り変わりの哀しさ。全てのものに通ずる汗の輝き。寡黙な職人肌に、静かに流れる思いやりと去りゆく姿。高度成長期も陰りが見えてきた今、もう一度汗を流す事も必要ではないだろうか。かと言って軍事力に力を注ぐようなことはしないで欲しい2014/07/13