出版社内容情報
太平洋に浮かぶ神話的な島と、近未来の台湾。二つの島に巨大な「ゴミの島」が押し寄せる時、謎の「複眼人」が姿を現す――。世界14か国で翻訳。台湾現代文学の担い手による代表的長編、待望の本邦初訳!
内容説明
次男が生きられない神話の島から追放された少年。自殺寸前の女性教師と山に消えた夫と息子。母や妻を失った先住民の女と男。事故で山の“心”に触れた技術者と環境保護を訴える海洋生態学者。傷を負い、愛を求める人間たちの運命が、巨大な「ゴミの島」を前に重なり合い、驚嘆の結末へと向かう―。人間と生物、自然と超自然的存在が交錯する世界を、台湾現代文学を牽引する作家が圧倒的スケールで描く感動巨編。
著者等紹介
呉明益[ゴメイエキ]
1971年台湾・台北生まれ。小説家、エッセイスト。国立東華大学華文文学科教授。輔仁大学マスメディア学部卒業、国立中央大学中国文学部で博士号取得。1997年に短編集『本日公休』でデビュー。二作目の長編となる本作で一躍脚光を浴び、14か国で翻訳された。台湾現代文学を代表する作家の一人
小栗山智[オグリヤマトモ]
日中通翻訳者。東京外国語大学中国語学科卒業、台湾輔仁大学翻訳学研究所日中通訳筆訳科修了。香港で放送通訳、金融翻訳などのインハウス通翻訳を経て、現在はフリーランス(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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Shun
31
台湾作家の呉明益による小説3冊目。現実と空想が織り成すマジックリアリズムな作風で、本作においても台湾の風土や情景が幻想的描写と合わさりどこか詩的な世界観を作っているようです。近代的な人々の暮らしがある一方で経済発展により大量のゴミが生み出され、海洋を漂う島となって先祖代々の土地が損なわれようとしている。向かう未来はディストピアのようでもあるが、それよりも作家が物語に込めたのは魂の救済や慈愛なのではないか。超自然な海や山が語られるときの、まるで本当に霊魂が存在しているかのような温かさ。複眼の眼には何が映る。2025/02/04
Matoka
8
最後の解説まで含めてとっても良かった。言葉の深さと美しさに打ちのめされた。2025/04/23
イツキ
6
環境問題や生物種の絶滅や死というものについて考えさせられる作品でした。人間たちが捨てたゴミが島のようになって台湾の島に打ち寄せられるという印象的なストーリーを軸に全員が身近な人との死別を経験している登場人物たち。そんな重苦しくなりそうな構成ながら不思議と読んでいてそこまで気持ちが落ち込むことはない不思議な空気感の小説でした。2025/04/12
アメヲトコ
6
原著2011年刊(台湾)、21年邦訳、25年1月文庫化。呉明益さんの小説は現実と幻想の重ね合わせがほんとうに巧い。本小説では環境問題や台湾原住民(邦訳では「先住民」を使用)の世界など多様なテーマが交叉しますが、軸となるのは生と死、人間にとっての記憶。物語はどこまでが現実でどこまでが空想なのか、複眼人が見る世界とは何なのか、読み終えたいまも色々な思いが去来します。2025/04/01
ほなみ
5
初めての感情に気づかせてくれる一冊。今年読んだ小説では今のところ1番ではある。 どんでん返しで「驚く」思いのすれ違いで「切なくなる」SFで「ワクワクする」ではこの本では? 読んだ感情をうまく言語化できない。強いて言えば「神秘的」とか「自然交わる」とかが近い気がする。 神秘的な島から台湾にたどり着いた少年や、海沿いに住む文学教授、捕鯨に反対する運動家。様々な人が、死を身近な感じながら自然と向き合う話なのだが、人と自然がシームレスな感じがする。人や自然など他者への想いがやさしいほんとに素敵な一冊2025/03/04