出版社内容情報
大坂の蘭学塾「適塾」を営む名高い医学者、緒方洪庵の妻となった八重。ぎこちない暮らしの中、次第に二人は心を通わせていく。そんな中、恐るべき疫病の疱瘡が流行の兆しを見せはじめた。洪庵と八重は、人々が疱瘡に苦しむことのない世をつくるため、適塾で学ぶ志士たち――大村益次郎、橋本左内、福沢諭吉らと共に新医術「牛痘種痘」を広めようとする。だが、それは長く困難な闘いの始まりだった。多くの人材を育て、近代医学の礎を築いた夫婦のひたむきな愛と絆を描く感動の歴史小説。
内容説明
大坂の蘭学塾「適塾」を営む名高い医学者、緒方洪庵の妻となった八重。ぎこちない暮らしの中、次第に二人は心を通わせていく。そんな中、恐るべき疫病の疱瘡が流行の兆しを見せはじめた。洪庵と八重は、人々が疱瘡に苦しむことのない世をつくるため、適塾で学ぶ志士たち―大村益次郎、橋本左内、福沢諭吉らと共に新医術「牛痘種痘」を広めようとする。だが、それは長く困難な闘いの始まりだった。近代医学の礎を築いた夫婦と教え子たちの、葛藤と成長を描く感動の歴史小説。
著者等紹介
佐藤雫[サトウシズク]
1988年、香川県生まれ。鎌倉幕府三代将軍・源実朝と、その妻で公家の姫・坊門信子の夫婦の絆と悲劇を描いた『言の葉は、残りて』(「海の匂い」を改題)で第32回小説すばる新人賞を受賞し、2020年デビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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パトラッシュ
146
新型コロナワクチンへの反対運動が示す通り、新しい疾病治療法への忌避は現代でも根強い。まして教育も科学もないに等しく、無知と迷信に支配されていた江戸時代ではもっと困難だった。それでも痘瘡から命を救おうと種痘に奔走する緒方洪庵と、夫を信じ支え続けた八重との夫婦愛の物語は白い蕾のように美しい。橋本左内や福沢諭吉ら適塾の弟子たちは、二人から生きる姿勢を学び幕末維新の世に向かっていったのだ。悲惨な死者や動乱に彩られながら、清々しい読後感に心洗われる。今作が直木賞候補に選ばれなかったのは、明らかな予選ミスではないか。2023/06/28
ちょろこ
144
輝く良作、の一冊。予め防ぐ、と言う天然痘撲滅に尽力した緒方洪庵の想いの種が、予防接種という実を結ぶまでを描いた物語。派手な宣伝に包まれた数ある本の中に埋もれていても白い輝きを静かに放つ良作だと思う。種痘が人に、国に認められるまでの険しい道のり。接がなければ枯れてしまう種痘をまるでたすきのように継いでいく過程に、熱き涙の歴史の恩恵を受けた自分の姿勢を正したくなる。洪庵を支える妻 八重の愛がまた物語に輝きと涙を添える。誰もが自分の適する道を信じ継ぐ姿に、涙ながらに思った。人の願いと想いは枯れることはなし、と。2023/07/06
trazom
131
緒方洪庵の妻・八重を主人公にした物語。洪庵の人格の素晴らしさは「福翁自伝」で読んだ通りだが、ここでは「洪庵さん」「八重さん」と呼び合う夫婦の仲の良さにも心温まる。偏見や妨害に晒されながら、疱瘡の予防のために牛痘種痘の普及に邁進する洪庵の使命感が心を打つ。適塾とは「己に適すると思う道を歩いてほしい」という意とのこと。そんな師の思いを受けて、大村益次郎、橋本左内、長与専斎、福沢諭吉たちが、それぞれの青春を捧げている姿が生き生きと描かれる。洪庵の善良さがそのまま映ったようなこの小説の読後感は、とても清々しい。2023/06/05
のぶ
94
爽やかな夫婦の物語に感動した。江戸時代後期の大坂で蘭医として活躍すると共に、適塾を開き多くの人材を育てが緒方洪庵と、洪庵に寄り添った妻の八重の二人を主人公とした話。洪庵は当時恐るべき病気だった疱瘡から人々を救うため、種痘活動に尽力し、病から人を守る除痘館を開き、牛痘種痘法による切痘を始める。当初は誹謗中傷もあり目指す道のりは険しかったが、徐々に世間に理解され功績が認められるようになる。洪庵の筋の通った行動と、それを支える八重の姿がとても良かった。この時代にすでに予防医学があったことに驚きも感じた。2023/06/20
ゆみねこ
90
大阪の蘭学塾・適塾を営む医師の緒方洪庵。幕末の動乱の中、疱瘡を撲滅させるため「牛痘種痘」を広めるために奮闘する洪庵と弟子たち。妻・八重、橋本左内、松本俊平、福沢諭吉らの視点で語られる洪庵。予防医学という概念の無い時代、人の命を救おうとする先駆者たちの労苦と、夫・洪庵を支えた八重との愛の物語でもある。読みやすく、時代物が苦手な方にもお薦めです。2023/05/25