内容説明
安楽死事件を起こして離島にとばされてきた女医の美和と、オリンピック予選の大舞台から転落した元競泳選手の昴。月明かりの晩、よるべなさだけを持ち寄って躰を重ねる男と女は、まるで夜の海に漂うくらげ―。同じ頃、美和の同級生の鈴音は余命宣告を受けていて…どうしようもない淋しさにひりつく心。人肌のぬくもりにいっときの慰めを求め、切実に生きようともがく人々に温かなまなざしを投げかける、再生の物語。
著者等紹介
桜木紫乃[サクラギシノ]
1965年北海道生まれ。2002年「雪虫」でオール讀物新人賞を受賞。07年、初の単行本『氷平線』が新聞書評等で絶賛される。11年刊行の『ラブレス』で13年、島清恋愛文学賞受賞。同年、『ホテルローヤル』で直木賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
さてさて
265
『死』というものと対峙することによって、逆に、生きること、愛すること、そして繋がることの大切さとその喜びを謳ったこの作品。そう、人が力強く歩んで行く、力強く生きていく、そして力強く繋がっていく、そんな未来を垣間見ることのできる喜び、それこそがこの作品の結末に描かれる光景の先にある物語。主人公達の人としての優しさと、人と人との繋がりの先に未来に続いていくそれぞれの道を垣間見るこの作品。しっとりと描かれるその作品世界の中に『死』と対峙することで見えてくる『生』の素晴らしさと喜びがふっと浮かび上がる絶品でした。2021/05/01
yoshida
233
高校の同級生3人を軸とした連作短編集。各話に絶望や涙、死の影があるが、最後は幸福な結末となる。桜木紫乃さんの作品では異色だろう。だが読後感は清々しい。個人的には「おでん」での亮太と詩緒の話が好きです。絶望のラストと思いながら、エピローグでしっかり救いがある。このエピローグでの幸福感が非常に目映い。各話を通して「死」を感じる絶望感がある。そこを乗り越えたからこそ、エピローグが輝くと思う。人生は様々なことが起こる。必要以上に絶望しなくても良い。希望と可能性を信じて生きていけば良いと思わせてくれた上質な短編集。2017/11/13
夢追人009
189
北海道を舞台に大人の男女の愛と人生を描く桜木紫乃さんお得意の心に沁みる連作長編小説。柿崎美和は寡黙で決して言い訳せず己の信念を曲げない強い女。木坂昴は初め嫌な野郎だと思っていたけど栄光からの転落と家庭の妻との事情を知った後は気の毒な不運な男だと考え直しました。佐藤亮太と詩緒(砂糖塩)、浦田寿美子と赤沢邦夫の夫婦に幸あれ。昴&美和と八木浩一は残念。滝澤鈴音と志田拓郎は残されたすばらしい日々を生き続けるのだ!最後に愛犬リンと5匹の子犬達(すばる、ベニ、ラッキー、ペッパー、ミラクル)みんなに幸せを届けておくれ。2018/12/09
おしゃべりメガネ
160
文庫にて4年ぶりの再読です。ほとんど?の作品が、決して明るいとは言えず、陰鬱なイメージの中で珍しく?前向きで明るめな作風なのが本作です。開業医「涼音」が大腸癌に侵され、その後の病院をワケありな友人「美和」に任せるコトに。ちょっとクセのある「美和」のキャラクターがなかなか個性的に描かれ、不思議と惹き付けられます。関わる人々のまっすぐなキモチや、ココロに抱えた悩み、葛藤をシリアスになりすぎるコトなく、淡々と書き綴る作者さんの筆力に改めて感服します。桜木さんの作品が苦手な方もこちらの作品はぜひオススメします。2018/03/28
Yunemo
138
著者3冊目。イメージ的には暗い感の作品、そうした思い込みで。読後に解説に目を通す、こんな解釈があるんだとの想いに駆られます。登場人物の人を思い遣る心の動きが身につまされます。前向きで自身のある人では駄目、応援じゃない、というフレーズに納得感。長年の、直近の友人、それぞれ医療に係わる人たちの想いに癒される心。ちょっと解せないのはおでんの二人、決着が見えないところ、登場人物の中では中途半端感あり。死への想いに始まり、リンの出産による生への希望で幕を閉じる本作、子犬の里親たちの集い、なんだか心地よさが残ります。2015/10/18