出版社内容情報
友人の平岡に譲ったかつての恋人、三千代への、長井代助の愛は深まる一方だった。そして平岡夫妻に亀裂が生じていることを知る。道徳的批判を超え個人主義的正義に行動する知識人を描いた前期三部作の第2作。
夏目 漱石[ナツメ ソウセキ]
著・文・その他
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
mukimi
124
描かれるのは、一見泰然自若として達観したように見える人物の理性のほころび。誠意と熱意を馬鹿にしていたくせに、理知があまりに巨大化したあげく情緒の支配に敗北してしまった男のタイミングはずれの素直な告白の言葉は滑稽に思う読者もあるかもしれないが、不倫が犯罪であった時代背景もあいまって、私は色気や哀愁を感じほろりとしてしまった。人の心も世の中の構造も、所詮こんなもんだろうとたかを括って見下して自分勝手に生きていけるほど簡単なものではないと漱石に肩を叩かれたようである。そこに私は激励の意味と警告の意味を感じた。2022/12/13
汐
65
近代の日本の姿が、漱石の視点で描かれています。人間は何のために働くのか、何を目的に働くのか。近代の日本が持つ課題、理性を無くし、脇目も振らず忙しなく新たなものへと進む、大きな組織と化した近代の日本への疑問が投げかけられている。文明は我らをして孤独せしむるものだ、と文中にある。近代の日本の陰は、現代において必ずしもないとは言えないと思う。代助と三千代の関係は社会の掟に反するものであるが、それを承知で「自然」を追及することもひとつのロマンなのかも。人生の転落は生々しい。愛とは何かを考えさせられた一冊。2017/01/10
さばずし2487398
41
新世代らしいニートが友人の奥さんと不倫。その愛を貫く為に決心した結果の行動が面白い。代助の、繊細な中にじわじわとした世間の圧迫感や違和感の描写が漱石の性格をそのまま反映している様に思えた。最後の街中の「赤」の描写なんて精神を患ってしまったかのようだ。題材も文体も今と殆ど同じ。「愛する」という言葉も普通に出てくる。少し前まで江戸時代だった訳で、いかに明治が激動期かを思った。主人公が父親をどう見ていたかの描写も興味深い。また、義理の姉とのやり取りも面白くて、深読みすると色々出てきそう。2022/10/19
myunclek
30
三四郎には無かった漱石の筆の迫力を感じた。人間の情念の凄まじさに、最後は圧倒された。勝手に想像していた夏目漱石感がひっくり返された。門では、どんな驚きを運んで来てくれるのか…。2015/01/29
川越読書旅団
28
暑くなると無性に手に取りたくなる夏目先生。そして代助の憎めない高等遊民っぷりが相変わらず心地良い。2023/07/15