出版社内容情報
優秀でありすぎるが故に引きこもりとなった18歳の堤隆太の前で、突然手首を切った女性。その魅力に惹かれるがままに、隆太は彼女の通う定時制高校・通称ハル高に通い始める。彼は高校で知り合った大吾が働く「月世界」というリサイクルショップの手伝いを始めるが、そこは「よろず相談」を受け付けていた。他愛もない疑問を解決していくうち、隆太は数年前に起きた未解決の一家殺人事件の謎に巻き込まれていく。青春小説から一転して、驚愕のストーリーに姿を変える、書き下ろしミステリー。
内容説明
目の前で手首を切った女性に惹かれた隆太は、彼女が通う定時制高校に入学した。やがて、彼は同級生の大吾が働く奇妙な店を手伝い始める。しかし、それは11年前の一家殺人事件に端を発する、歪んだ悲哀が渦巻く世界への入口だった!平穏な日常が揺らぐ衝撃のミステリー。
著者等紹介
宇佐美まこと[ウサミマコト]
1957年愛媛県生まれ。2006年『るんびにの子供』で第1回「幽」怪談文学賞短編部門大賞を受賞してデビュー。17年『愚者の毒』で第70回日本推理作家協会賞長編及び連作短編集部門受賞。19年『展望塔のラプンツェル』が「本の雑誌ベスト10」第一位に選出される(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
しんたろー
260
主人公・隆太が定時制高校で出会った同級生・大吾と共に、数々の事件に向き合う連作形式の物語は、11年前に起こった一家惨殺事件に繋がる…著者が陥り易い「盛り込み過ぎて消化不良」になるのを心配したが、巧く構成されていて杞憂に終わった。登場人物の多くが哀しい過去を背負っているので暗い雰囲気ではあるが、瑞々しい青春ものの一面もあって、絶妙なバランスの内容になっていると思えた。隆太が脆弱な理由も最後には納得できたし、大吾の健気さを応援できた。結末も宇佐美さんしては爽やかで『ポニン浄土』に続いて秀作を産み出したと思う。2020/10/20
いつでも母さん
216
夜の底から聴こえる声とは・・はぁ~そうでしたか。そこだったかぁって感じ。長い長い葛藤にやっと終焉を迎えたことにホッとするのは私だけじゃないはず。16年前のたった1年間に僕・隆太にあったことは、ここの登場人物が抱えていた全ての『重し』を解放する。真実・・それは友・大吾に起きた11年前の事件だけじゃなく、哀れな男の一生を明らかにしたことでもあったのだ。帯に煽られて読み始めるも、終始不穏な空気感が漂い先が気になって急ぐ読書になった。今回、宇佐美まことの描く『再生』を読まされて嬉しい感じ。2020/09/08
ウッディ
207
目の前でリストカットした女性に惹かれて定時制高校に通うことになった引きこもりの隆太。クラスメイトの大吾が働くリサイクルショップに入り浸り、持ち込まれる相談事を解決し、やがて数年前の一家殺人事件に関わることになる。死の雰囲気が充満した前半の暗さで、読み進めるのが苦痛だったが、事件の真相が明らかになり、大吾との友情と学ぶことの大切さを知り前向きに生きようとする後半は大きく印象が違う物語でした。大切なものを得た一年間を描き、意外と爽やかな結末に、リストカットの話は必要だったのかという疑問はも残りました。2021/04/11
シナモン
186
「よろず相談事」も受け付けるリサイクルショップ「月世界」。持ち込まれる相談事の一つ一つが丁寧に描かれ、その背景、トリックになるほどな~と唸る。そんな物語が続いていくと思ったら、それぞれが繋がって忘れられていた過去の大きな事件が動き出す。作り込まれた複雑な伏線にゾクゾクしました。一方で引きこもり生活を送っていた主人公が「月世界」と関わるうちに社会性を身につけていく様は爽やか。そのアンバランスさが何とも言えない一冊でした。2021/04/21
みっちゃん
184
「その女はいきなり手首を切った」冒頭からいきなり度胆を抜いてくる。が、心を閉ざし、引きこもる主人公のそれからの人生を大きく変える運命の出会いだ。このとんでもない出会いをきっかけに、定時制高校に通い始め、徐々に心を通わせる友が増えていく中で、その観察力と洞察力で小さな日常の謎を解いていく。それが回り回って、過去に起きたある悲惨な事件を解決するよすがと発展していく。辛い過去と向き合うのには勇気がいる。でも知る、という事を恐れていてはそこから先には進めない。構成の妙と出会いの意味に思いを致す秀作。2020/10/13
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