内容説明
戦争で両親を亡くした男の魂が肉体を離れて海辺をさまよう。親代わりの女は、なんとか肉体に戻るよう懸命に魂に語りかけるが…。表題作「魂込め」ほか短篇六篇を収録。戦争と沖縄、新感覚で描く、記憶をめぐる物語。芥川賞受賞後、初の作品集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
92
池澤夏樹編纂の世界文学全集で知った『面影と連れて』で知った目取真俊氏。アメリカと日本に引き裂かれ、日本からは勝手に属国扱いされ、米軍基地に対しては日本では腫れ物扱いされるというイメージがあった沖縄。ここに描かれているのは、勝手に線引きされて集団自決やスパイ容疑で殺された事、沖縄人を蔑み、傍若無人に振る舞う日本人の姿やそれに卑屈になるしかない沖縄人の苦渋と怒りと力強さ、米軍や日本人による男子児童や女性へのレイプ、ブラジルへの出稼ぎの思い出だ。そこには沖縄の現実への怒りと共に沖縄人への敬意と愛も篭っている。2017/06/10
ダイ@2019.11.2~一時休止
85
短編集。全般的に重い・・・。軍鶏なんてええ~って感じでラストもそれでいいのか?2017/05/19
梶
38
ひらがなにひらがなのルビが振ってある、その事態の奇矯さに、沖縄と内地の関係の歪さも投影できる。特に印象に残ったのは「軍鶏」。幼少期に感じる熱を持った疼き、鶏の闘いは親殺しの闘いへと敷衍し、やがてさらに大きな敵との闘いへと連繋する。燃えるような温度の結末部は圧巻で、一読して熱い作品だと驚いた。目取真俊の引力は止まない。2024/06/05
スミス市松
23
デビュー当初からすでに完成した文体を持った作家ではあったが、「ブラジルおじいの酒」にておじいが語るブラジル時代の幻想的な挿話、あるいは「面影と連れて」における語りの展開/転回など、本書では著者の小説世界が確実に拡がりを見せつつあることが分かる。これまで読んだ中では最も完成度が高く、傑作揃いの短篇集である。芥川賞受賞作「水滴」を更新したともいえる表題作に加え、舞い踊る色とりどりの群蝶の羽ばたきが屈指の美しさを誇る「ブラジルおじいの酒」、その他「赤い椰子の葉」「軍鶏」「面影と連れて」「内海」を収録。2017/02/13
松本直哉
22
死者の魂が海に帰るのも海亀の卵が孵って海に泳ぎ出すのも49日目、その日に亡き人を偲びつつ海辺に立ち尽くす老女の思いは、戦争中に同じ場所で米軍スパイと見なされて撃ち殺された友人へと繋がってゆく。海亀やヤドカリに亡き人を重ねる表題作に深い感銘を受けた。沖縄の人々にとっての海は人間の魂の故郷であるとともに生き物たちの棲まう場所でもあり、その生き物たちは人間の化身であるかもしれず、その海が基地開発の名のもとに茶色く変わり果ててゆくのははらわたをかきむしられるような思いではないかと考えつつ沖縄慰霊の日に読み終える。2024/06/23