内容説明
九州の入海をながめる丘陵の、最も峻嶮な峠「骨餓身」。昭和初期、その奥にある葛炭坑を舞台に繰り広げられる近親相姦の地獄絵、妖しく光る異常な美の世界。磨き上げられた濃密な文体で綴られる野坂文学の極致。衝撃の表題作の他、「人情ふいなーれ」「同行二人」「マイ・ミックスチュア」「当世ますらお団」「ああ奇怪大綬章」「紀元は二千六百年」を収録。
著者等紹介
野坂昭如[ノサカアキユキ]
1930年鎌倉市生まれ。45年神戸大空襲で養父を失う。47年新潟の実父のもとへ帰る。50年早稲田大学文学部仏文科に入学し、七年間在学。音楽事務所勤務、コント台本作成、作詞等に従事。63年「エロ事師たち」発表。68年「アメリカひじき」「火垂るの墓」で第58回直木賞受賞。80年「四畳半襖の下張」裁判で有罪確定。83年参議院議員当選、同年総選挙に田中角栄元首相の地盤・新潟三区から立候補し落選。97年『同心円』で第31回吉川英治文学賞受賞。2002年『文壇』およびそれに至る文業により第30回泉鏡花文学賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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YM
63
全くおすすめしないけど、個人的にはベスト級。この作品に出会わせてくれた澁澤先生に感謝。骨餓身峠死人葛(ほねがみとうげほとけかずら)、炭鉱という暗くて閉ざされた世界で、死人を養分にして白くて美しい花を咲かせる死人葛にまどわされた、たかをという女性を中心に、想像を絶するような、ありとあらゆる性と暴力が、圧倒的な筆力でこれでもかと描かれる。これはホラーでも、ただのエログロでもない、リアルなんだ。生きるためのセックスと死は、たかをを輝かせる、すでに死人葛そのものであった。2015/01/18
キャンダシー
61
北九州の山奥にある骨餓身峠の葛炭坑。まばらな林に卒塔婆だけが立てられた墓場に群生する死人葛。腐爛した屍を養分として、塔婆に抱きつくように細い茎を絡ませ、夏になると可憐な白い花を咲かせる。最初に死人葛の魔性の美に魅入られたのは、十六歳の娘たかを。のちに死の影絵としての死人葛の化身となって、この世に現出した性と死の織りなすアラベスクの中心に、錯乱した女王として君臨することになる。死人葛の密やかな忍び笑いは生と死を顚倒させ、性の輪廻のパラダイスが、死を再生産させる。凄絶な美のラストシーン。女王陛下たかをに敬礼!2021/10/26
shizuka
29
野坂氏追悼第2弾。エロもありグロもあり、けれど品もあり。焼け跡派だからこその物語7編。『同行二人』『当世ますらお団』がことのほか面白かった。駆け落ちした息子と娘が月夜の浜辺で抱き合い、風邪をひくのではなかろうかと心配する息子の母親に対して、娘の母親が「ひくもんかいな。好いた同士やのに」とつぶやくところに、野坂さんの美学を感じた。その言葉で、いままで娘を憎んでいた息子の母親がすっと納得するのも優しい。『当世〜』男からしたら女ってそうなんだろうなと思わず頷く。いいオチ。どうしてこうも惹かれるんだろ、野坂さん。2015/12/15
三平
11
焼跡闇市派と自らを称した著者が乾いた視点で描く短編集。全体的に生々しい人間模様が語られているが、どこか人間・社会に対しての虚しさが作品の芯にあるように感じられた。 表題作は死人葛に寄生された炭鉱町の末路を描く、ある意味ホラー。屍の上に「生」の花を咲かせる人間の業。エログロだけど不思議に惹かれてやまない作品だった。正直しんどい作品が多かったが「同行二人」が清涼剤。暗い中を歩いてきたからこそ分かる小さな光にちょっとしんみりさせられた。本当の幸せって見失いがちなのかも。2016/04/29
勝浩1958
9
「骨餓身峠死人葛」には痺れてしまいました。近親相姦の妖しく物悲しくも何とも言えず切ない。「マイ・ミックスチュア」は女の性が衝撃的な結末を迎えます。多くの作品の底流には弱者への優しいまなざしがしっかりとあり、弱者である子供や女性や老人がもっとも犠牲になった戦争を憎悪し、反戦を正々堂々と謳う、そこが私が野坂氏を敬愛する所以であります。エロ・グロ、ナンセンスは表の顔、本当はシャイで優しいオジサンなのです。2016/09/04