内容説明
弱冠一九歳で陸軍少尉に任官し、敗戦までの四年間、小隊長、中隊長として最前線で指揮をとった著者は、戦後、その経験をベースに戦争史研究を切り拓き、牽引した。著者がその人生を閉じる直前にまとめた本書は、歴史家の透徹した目を通して日本軍のありさまと兵士・将官たちの日常を描き出した「従軍記」であるとともに、優れた兵士論・戦場論にもなっている。
目次
序節 士官学校へ入るまで
1 華北警備の小・中隊長
2 大陸打通作戦
3 遂〓作戦
4 中国戦線から本土決戦師団へ
終節 歴史家をめざす
付録 ある現代史家の回想
著者等紹介
藤原彰[フジワラアキラ]
1922‐2003年。日本近現代史・軍事史。1941年7月陸軍士官学校卒、10月に少尉任官。華北における治安粛正戦、満州における対ソ警備、大陸打通作戦に参加した後、本土決戦のための大隊長として敗戦を迎える。1949年東京大学文学部史学科卒。1969‐1986年一橋大学社会学部教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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えちぜんや よーた
95
映画「日本の一番長い日」(主演:役所広司さん)では、1945年7月26日に連合国から発せられたポツダム宣言について鈴木貫太郎内閣は宣言の受諾を黙殺する。陸軍を代表して阿南惟幾陸相が強硬に反対するからだ。理由は中国において日本軍は形勢不利とは言え、太平洋のように完敗していないこと。日本内地にはまだ数百万の将兵が残っていること。下手に受諾をすれば陸軍がクーデターを起こしかねない。この本を読むと8月14日に日本が無条件降伏を受け入れるまでに広島・長崎の原爆投下や対ソ戦が起こった間接的な理由がうかがい知れる。2019/09/30
モリータ
19
◆『餓死した英霊たち』の著者である近現代軍事史研究者による従軍記。2002年原著、2019年復刊。生い立ち、'41に陸士卒業、支那駐屯歩兵第三連隊配属、小部隊での八路軍討伐(この辺りは観たばかりの『独立愚連隊』の情景を彷彿)、満州集結・訓練、中隊長として大陸打通作戦での広東付近までの遠征、終戦直前の本土決戦用師団への配属まで。大陸戦線で見たものが『餓死した-』の問題意識と直結していることがよくわかる。◆戦後、東大文学部へ進学して近現代史研究を志し、一橋大で学務・研究に当たった時期までの回想(遺稿)も収録。2019/08/12
Michael S.
15
著者は,日本近代現代史・軍事史研究のパイオニア的存在.陸士55期,19歳で少尉任官し北支戦線,満洲,大陸打通作戦,本土決戦師団へと転戦する. 復員後は東大へ入り,歴史家となった.下級将校としての個人的従軍体験と歴史家として後に知った部隊の作戦記録をうまく織り交ぜてあり,戦争の実態がよく分かる文章になっている.中国戦線でも太平洋戦線と同じく食糧不足や医療物資の不足で多くの戦病死が出ている.盧溝橋事件から8年も続いた泥沼の戦争が,いかに無謀で無益な戦争だったか考えさせるきっかけになると思う.オススメ. 2020/08/22
nagoyan
13
優。ロンメル「歩兵」を読んだ後では、謙抑的な記述が人柄を忍ばせる。本書で繰り返し指摘されるのは、著者の歴史家としての業績とも重なる軍の兵站無視に現れる非合理的かつ無責任な体質である。もはや、「食う」(=掠奪)ためだけに戦う。野盗同然だろう。抗上官罪が蔓延するのも不思議ではない。また、野戦病院の悲惨さ。野戦病院は武力を持たないので自ら徴発=掠奪することができない。医薬品どころか食糧難だった。出先軍は、友軍が通らなかった処女地を選んで進軍しなければ徴発もできなかった。よく読めば、戦争犯罪の告白ととれる記述も。2019/08/10
Toska
11
陸士出のエリート将校でありながら、戦後は日本を代表する現代史研究者となった著者が、最前線で奮闘した戦中の日々を振り返る。日本軍の体質や戦略などマクロな視点と、個人的な体験を中心としたミクロな視点を巧みに組み合わせた叙述は「歴史家の戦記」の面目躍如。敗戦の混乱の中から徐々に戦後歴史学が立ち上げられていく過程の描写も興味深い。降伏を知った時、「なぜ天皇は腹を切らなかったのか?」という一本気な著者の思いが、その後の研究人生を導いていったのだろう。2022/06/20
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