出版社内容情報
魂は肉体とともに消滅する存在であるのに、なぜ人は「あの世」というフィクションを創造するのだろうか。俳人は、癌という病を得て、生老病死をまるごと包み込む俳句の宇宙にあらためて向き合い、生と死にまつわる世界の壮大な仕掛けを考えた。俳諧の奥深さを伝える実作者ならではのエッセイ。「図書」好評連載、待望の書籍化。
内容説明
人間の生とは何か、そして死とは?来世など期待せず、今いる世界で納得のゆくように生きる。そのためには理想を喪失したまま漂流する現代についてよく知らなくてはならない。野放しになった欲望、壊れかかった民主主義、言葉に踊らされる人々。一人の俳人が癌の宣告をきっかけに人間の生と死について考えた思索の記録である。
目次
第1章 癌になって考えたこと
第2章 挫折した高等遊民
第3章 誰も自分の死を知らない
第4章 地獄は何のためにあるか
第5章 魂の消滅について
第6章 自滅する民主主義
第7章 理想なき現代
第8章 安らかな死
著者等紹介
長谷川櫂[ハセガワカイ]
1954年熊本県生まれ。俳人。俳句結社「古志」前主宰。「きごさい(季語と歳時記の会)」代表。朝日俳壇選者。読売新聞に詩歌コラム「四季」を連載、インターネットサイト「俳句的生活」で「ネット投句」「うたたね歌仙」を主宰している。句集に『虚空』(花神社、読売文学賞受賞)、評論集に『俳句の宇宙』(サントリー学芸賞受賞)などがある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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みつ
19
そういえば「人間探求派」と呼ばれる俳人たちがいたなあ、草田男、波郷、楸邨、皆好きな俳人だなあ、と中途半端な知識と興味で手に取った本。実際は皮膚癌の告知を受けた著者が、死病に直面した子規や漱石についての想いを綴るとこから始まる。そこから芭蕉、さらには東日本大震災と原発事故、先の沖縄戦、平知盛、西行法師、丸谷才一、大岡信など、様々な状況と人の死を巡る省察が続き、現在の社会状況に至る。自らの癌を基調低音としながらも取り止めのない構成は、『図書』連載をまとめたが故か。引用俳句・短歌が巻末索引に纏っているのは便利。2022/07/04
タイコウチ
9
「俳句と人間」とはちょっと大仰なタイトルだが、俳人である著者が癌の宣告を受け、治療を進めるさなかに、さまざまな文人の作品(俳句とは限らない)に見られる死生観をめぐり思索するエッセイ。正岡子規、夏目漱石、三島由紀夫、大岡信、芭蕉らの作品とともに、コロナ禍における現代日本社会の政治や文化まで話は広がっていく。実は離れて暮らす父に久しぶりに会う際のみやげに購入したのだが、平知盛の最期の言葉とされる「見るべき程のことは見つ」にも触れている。父が辞世の句だと言ってだいぶ前に詠んだ句にはこの知盛の言葉が引かれている。2022/06/17
Eiko
8
長谷川櫂の句集は読んだことがないけれど、新書版のものは何冊か読んでいる。朝日俳壇の選には「なるほどなぁ」と毎週思う。そうか、がんを患っていらしたんだと驚く。大体同世代だから、他人事ではない。大病という点ではワタシも何度か手術台に乗っているが、手術して患部を取ってしまえば完治というほどのことだから、死を意識したことはない。知識人(あってるかなぁ)は、自身の病さえも思索の種にするんだと思った。芭蕉の『古池や蛙飛び込む水の音』の解釈は長谷川櫂のどの本にも出てくるが、読む度に俳句って難しいと再確認する。2022/05/16
井の中の蛙
7
俳句と共に筆者の思想が色濃く語られたエッセイ。2024/06/15
とむ
3
人間の生と死について、詩歌の観点から考察したエッセイ。筆者は安らかな死というものはないと考えているが、せめてつらいこともあったがよかったこともあった、生まれてきてよかった、と思えるように過ごしていきたい。2022/06/30
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