出版社内容情報
分身、夢、不死、記憶などのテーマが、先行諸作品とは異なるかたちで変奏される、端正で緊密な文体によるボルヘス最後の短篇集。本邦初訳の表題作のほか、「一九八三年八月二十五日」「青い虎」「パラケルススの薔薇」を収録。二十世紀文学の巨匠が後世にのこしてくれた、躊躇なく《ボルヘスの遺言》とよぶべき四つの珠玉。
内容説明
分身、夢、記憶、不死、神の遍在などのテーマが作品間で響き合う、巨匠ボルヘスの白鳥の歌。本邦初訳の表題作のほか、「一九八三年八月二十五日」「青い虎」「パラケルススの薔薇」を収録。精緻で広大、深遠で澄明な、磨きぬかれた四つの珠玉。巨匠の文学的遺言。
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読書という航海の本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
syaori
75
ボルヘス晩年の作品を集めた短編集。相変わらず不可思議で静かで美しい夢の中を彷徨うよう。それは生と死、夢と郷愁、秩序と混沌、記憶と自我、シェイクスピアやブレイクといったものが無限に連なる迷宮でもあり、同時に「まやかしの記憶」「秩序への渇望」などへの幻想は人間なら誰もが夢想する「些末でおそろしいこと」を映した不条理な悪夢でもあって、ボルヘスの記憶と私の惧れ、または私の空想とボルヘスの夢幻が響き合っているよう。ボルヘス「最晩年の自伝」といった趣の強い『1983年8月25日』『シェイクスピアの記憶』が大変好き。2024/06/28
藤月はな(灯れ松明の火)
60
表題作以外は再読。「一九八三年八月二十五日」は作家が老いた自分と出逢い、人生について語る。普通はパニックになりそうな出来事なのに冷静に話し合っているのがシュールだ。読みながら死の予兆と相対する時の自分の在り様について考えてしまった。「青い虎」は持って帰ってはいけない石を持って帰ってしまった学者の話。恩田陸さんの「観光旅行」を彷彿とさせつつも時空、数の概念、常識などを超越し、増殖・存在する石に狼狽する学者に「学者は過去に蓄えられた知識や概念に縛られる事で立脚できる。故に智を無から生み出す者の境地は計り知れぬ2024/01/28
スプーン
47
魔界とつながらぬ本など無意味だ。 すべての書籍は、すべからく、ボルヘスのそれに見習うべきだ。2024/05/14
蘭奢待
45
常々親しみたいと思っているルイス・ボルヘスの作品。こちらは短編集。行間の広さ、フォントの大きさなど、最近の岩波文庫の優しさを感じる。が、作品自体は難解。ボルヘスらしい幻想的な物語の短編集。後書きで訳者の解題が載るのが助かる。ボルヘスの波乱に満ちた人生を垣間見れる。2024/03/16
新田新一
25
アルゼンチンの文豪ボルヘスの最後の短篇集です。どの短編も幻想的で、迷路の中を歩くような不思議な雰囲気があって、わくわくしながら読みました。表題作が一番の好みです。学者である主人公が、ある男からシェイクスピアの記憶を譲られます。この記憶の譲渡という神秘的な主題が淡々と語られて、シェイクスピアの内面が浮かび上がってきます。天才というより、普通の人だったという書き方が面白いです。ボルヘスの書き方は、普通の人が歴史に残る作品を書けることが素晴らしいのだという文学の讃歌になっており、読み手の胸を打ちます。2024/01/21