出版社内容情報
暴君ネロの気紛れさえゲームのように楽しむ,美と快楽の信奉者ペトロニウス.一本気なその甥ウィニキウスは,リギ族の王女への恋からキリスト教に心を開き,やがてそのことがペトロニウスの運命をも変えていく.爛熟期の帝政ローマを舞台に,愛と暴力,信仰と頽廃が入り乱れて織りなす壮大な歴史ロマン.新訳. (解説 辻 邦生)
内容説明
傷ついたウィニキウスを一心に看護するリギア。神への愛に身を捧げる人たちの中にあって、それぞれの心に重大な変化が芽生え、やがて幸福の予感が二人を包む。しかし、ネロの気紛れからローマの街は一面の火の海にのみこまれることに…。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
のっち♬
125
本作の大きな魅力として黎明期キリスト教の社会的・文化的な立ち位置が明確に映し出されている点が挙げられよう。リギアの愛に触れたウィニキウスの回心は対極的価値観を持った傲慢な力の行使者だったからこそ一見ドラマチックであるが、その後の大勢の信者たちの苦しみに心をいためない様子からしていささか怪しいところがある。造形バランスや観客の視線の追い方にしても、教養小説には背を向けた好奇心が随所で垣間見れるのも特色。スリリングな戦闘や智略の攻防、聖ペトロやパウロとの対峙なども確かな筆力で描かれていて中弛みを感じさせない。2017/12/03
藤月はな(灯れ松明の火)
89
リギアを誘拐しようとして怪我をしたヴィニキウスはキリスト教徒の献身さと真心に触れて退廃的なローマの生活や武人としての矜持と、リギアへの募る(相手を重んじる)愛とキリスト教徒への敬意との狭間で苦悩する。ペトロニウスに「お前はキリスト教徒になったのか?」と尋ねられて「いいえ、まだです!」と煩悶するヴィニキウスの姿は上巻と比べると別人のよう。一方で「母殺し」という事実への批判の声を払拭するために市民の怒りを別の方向に向けさせようとするネロ皇帝の姿勢に人間がいつの時代も変わらない愚かさを見ているようにも感じられる2017/07/11
NAO
68
ウィニキウスの改心とリギアとの関係修復。二人が心を通わせていく甘い話の一方でネロの狂気は留まるところを知らない。そんなネロに唯一厳しい言葉を発するペトロニウスは一本筋が通った男前に描かれているが、ただ生真面目に正義を貫いているのではなく、自らを危険な状況に置くことを楽しんでいるようにも見える。そんなところがネロに好かれていたのだろうが、ローマ大火の後処理を巡りついに二人は決裂。この巻は、ウィニキウスよりペトロニウスの言動に強く心ひかれる巻だった。2021/09/07
かわうそ
27
そろそろ話が動き出すかと思ったこの巻も序盤はウィニキウスがキリスト教徒に転じる過程がじっくり描かれて正直ちょっと退屈だったけど、後半はすごい迫力で一気に盛り上がる。引き続き下巻へ。2018/07/17
seacalf
20
この中巻以降から物語は加速度的に面白くなってくる。 キリスト教徒ではないけれど、ペテロ、パウロが登場すると興奮。 ところで、頻繁に登場する植物、てんにんか、きづた、が気になって仕方ない。 追従口ばかりのネロの取り巻きの中で、自分の美意識・価値観にぶれずに生きているペトロニウスにしびれる。 とにもかくにも、ここまで読むと心をわし掴みされて休日返上で読むしかない。 2016/08/11