出版社内容情報
何ごとかを語ろうにも「言葉が腐れ茸のように口の中で崩れてしまう」思いに,チャンドス卿は詩文の筆を放棄する.――言葉と物とが乖離した現代的状況をいち早くとらえた「チャンドス卿の手紙」こそは,新しい表現を求めて苦悩する二○世紀文学の原点である.ホフマンスタール(一八七四‐一九二九)の文学の核心をなす散文作品十一篇を精選.
内容説明
何ごとかを語ろうにも「言葉が腐れ茸のように口のなかで崩れてしまう」思いに、チャンドス卿は詩文の筆を放棄する。―言葉と物とが乖離した現代的状況をいち早くとらえた「チャンドス卿の手紙」こそは、新しい表現を求めて苦悩する20世紀文学の原点である。ホスマンスタールの文学の核心をなす散文作品11篇を精選。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
42
この作家についての作品は今まで読んだことがありませんでした。ドイツ文学は比較的好きなのですが。短篇小説が4編と架空の手紙と対話がそれぞれ2編づつ、最後に紀行文が3編収められています。小説と紀行文は比較的読みやすく感じられましたが、表題作については自己の意図するところを語っているのですが若干哲学的な要素があり私には難しく感じました。原文で読むともう少し味わいが感じられるのかもしれません。2015/05/09
スミス市松
25
ここに絶頂がある。小説とは、およそ言葉で言い表すことのできない何かを“言葉”によって想起させるものだとするならば、そのすべての始まりにして終わりとなるものとしてホフマンスタールの「チャンドス卿の手紙」を筆頭とする作品群がある。私がこれまで小説を読み、小説に求めてきた最も根本的なことがここに書かれていると言っても大げさではない。さらに個人的なことを言えば、二十代の終わりという、いわば“青春の終わり”のきわにあってこのような作品に出会えたことを、私は幸福に思ったのである。2017/03/30
chanvesa
21
「チャンドス卿の手紙」の「なにかを別のものと関連づけて考えたり話したりする能力がまったくなくなってしまった」(109頁)症状は、「口に浮かんださまざまの概念がとつぜん曖昧な色合いになり、輪郭をなくして入り混じってしまった。」(同頁)散らかってしまう思考が束ねることができる鍵は、「帰国者の手紙」のゴッホの絵について語った言葉かもしれない。「なにしろ最初に眼にはいってきたものを、絵として、ひとつの統一体として眺めるためには、ます絵の方に感覚をあわせる必要があった。」(211頁)統一する主体を自身から外に。2024/01/08
風に吹かれて
17
書いている自分も読み手も信じていないけれど何かを捉えたい、でも、捉えていないと思うから、さらに言葉を重ねる。あまり解像度が高いと目が眩むように、解像度の高い文章に眩暈を感じ、捉えがたいまま、ひとつの文章を読み終える。さて次は、と読むと、分からない自分を苛立たせる。『ルツィドール』は言葉の魔力をお伽噺のように表していて面白かったが…。そして、『帰還者の手紙』の「第四の手紙」がヒントをくれた。「(ゴッホが描き出した)創造物は、世界に対する恐ろしいばかりの懐疑から産みだされたものであり、 →2022/03/28
またの名
13
誰々の娘はしっかりものでうらやましいとか○○の息子の金遣いが荒くて気の毒とかいった他愛のない会話をやり取りすることもできなくなったチャンドス卿の苦悩は、ただのコミュ障のレベルではない。言葉で物を語ろうとしてもすべての言葉がまともな連関を形成して機能しているとは思えなくなった、訳の分からない不安と不安定感を描く表題作がやはり傑作。ひとが世界の内にひしめくさまざまな存在物を前にしてそれらにあてがうべき適切な言葉を何ひとつ見出せなくなったとき、「名づけえぬもの」という逆説的な名前が文学の中に現れることになった。2016/02/06