出版社内容情報
ワイマルにあって,大公の敬愛のもとに栄光に包まれ,殆ど神聖視すらされている老ゲーテと,「若きウェルテル」のロッテの四十四年ぶりの再会.永遠の女性としてゲーテの作品に刻みこまれたロッテと現身の老婦人ロッテとの対比に重ね合わせて,作者は詩聖ゲーテをその心の内部にふみこんで,精緻かつ周到に描き出してゆく.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Alm1111
10
『若きウェルテルの悩み』で登場したヒロイン・ロッテのモデルだった同名の女性が、晩年になってゲーテの住むワイマールを訪ねたという史実を元に、トーマス・マンが書いた物語。ロッテは自分の妹を訪ねてワイマールに来たのだが、ホテルの芳名帳に名前と身分を書いた途端あっという間に町中に噂が広がり、あのロッテに一目会いたいとファンが押しかけてくる。ロッテの迷惑も顧みず「推し活」しまくる人々。会って何をするのかと思えば自分の話ばっかり(笑)。早く妹のところに行きたいロッテだがファンの相手でホテルから一向に出られない(笑)2025/06/23
てれまこし
6
神から愛される天才は、人のあいだでは暴君らしい。人間を愛しながらも、自分は人間の外に立っている。神と同じでつまらん人間の人事には無関心で、自分が作るドラマの素材くらいにしか思っていない。すべての矛盾をも受け入れる寛大な心は、またニヒリズムでもである。本人は自然とか宇宙とかもっと大きな場所の住人であると思っている。だから、民族とか国家なんて田舎の村くらいにしか思わない。腹が立つんだが、僕らもこの神に近い人間を別格扱いして、甘やかさざるをえない。いろいろ不満はあるのだけど、敬愛し崇拝せざるをえないらしい。2018/10/07
tieckP(ティークP)
6
トーマス・マンがゲーテへの愛情というものを抑えきれずに、その生涯について周辺人物を用いて語らせているのがこの上巻。ゲーテに対する批判も混じっているが、作中でリーマーが述べているとおり、ほんとうに偉大な人物については批判をすることで敬意を示すのであって、本書に詰まっている敬慕の念、あるいは資料探索からそれを見事な演説に置き換える手腕とエネルギーの量は圧巻である。それにしても文豪が文豪について書いたから商売になるのだが、よくこんなニッチな小説が刊行されたものだ。マンとゲーテ双方のファンにしかお勧めできない。2017/11/20
佐藤 智治
1
ここまで会話文が長いのなら、別に説明文と変わらないという感じを受けた。緩急がないという事です。 何度読んでもいまいち印象が残らなく、「魔の山」ではなかったので、訳文が合わないか、原文に問題があるのかもしれない。 もっとも内容的な要素もあり、ゲーテが出てこないが、周囲の人で語らせる(三島由紀夫のサド侯爵夫人などと同じ)の趣旨には賛同するが、登場人物がつまらないと感じました。だから読んでもつまらないわけです。2019/03/01
Tetsuto
0
ナチスドイツにおいて、偉大なドイツ精神が消滅の危機に頻する中、一筋の光をゲーテの中に見つけ、驚くべき想像力で長編小説を書き上げたマン。「ウェルテルの悩み」はゲーテの青春の結晶であるが、いくら老いさらばえようとも青春は心の持ちようで何度でも繰り返される。44年ぶりにゲーテと再会しようとするシャルロッテは、ワイマルの市民たちから熱狂的な歓迎を受ける。上巻ではゲーテは現れないにも関わらず、関係者の証言から人物像が浮かび上がる。こんなにおもしろい作品があったなんて。復刊を希望します。2017/11/09