内容説明
現役の作家のなかにも熱狂的なファンの少なくない、鬼才、久生十蘭の精粋を、おもに戦後に発表された短篇から厳選。世界短篇小説コンクールで第一席を獲得した「母子像」、幻想性豊かな「黄泉から」、戦争の記憶が鮮明な「蝶の絵」「復活祭」など、巧緻な構成と密度の高さが鮮烈な印象を残す全15篇。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
まこみや
95
何かのアンソロジーで短編を一つ二つ読んだことがあったけれど、まとまって読むのは初めてだった。不覚でした。久生十蘭という作家の位置をすっかり見直した。いわば、芥川の後継者の見立てである。特に瞠目に値するのは、作品に応じて自在に使い分ける縷縷彫琢された文体の魔とでもいうべき表現力だ。選ばれた玄人筋の愛読者をジュラ二アンと称するのも宜なるかな。鬼才という言葉こそふさわしい。小生にとってはまだまだ未読の作品が多くあるので、老後の楽しみが増えました。2024/04/21
ずっきん
48
初っぱなの「黄泉から」でいきなり陶然となり、これはイカンとゆっくりとご褒美のように一篇一篇を読み進めていった。なんでこんなに好きなのかうまく説明できない。物語がいきなりぐっと近づいてくる瞬間が好き。一見からりとした文章は、行間を読ませるということがなく、ただ十蘭の言葉通りに思い描いて物語に沈むだけで幸せになれる。「黄泉から」「蝶の絵」「春雪」は、ダントツに好き。あっ、と思った時には鷲掴みにされていた。「無月物語」と「春の山」「白雪姫」は描写に酔っぱらう。解説は難解すぎたが、十蘭愛はひしひし伝わってきた。2018/03/05
tonpie
43
戦後の作品だけから集められた短篇集なので、この作家の全貌を知るには程遠いが、印象を述べてみよう。テーマ的には、やはり日本の敗戦を契機とした人生模様、特に戦前に海外生活を経験した人々の、多くは日本の上層階級の屈託が描かれている。敗戦時にどこにいたかという視点で見ると、いかに多彩な海外生活者の人生行路が描かれているか、驚く。短編なのにストーリーは相当込み入っていて、一筋縄ではいかない。さらに意図的に混乱を引き起こす話法や時間の流れがあり、物語の梗概を書くのに苦労させられる。↓2025/08/24
安南
39
チェンチ一族の悲劇を中世日本に置き換えた『無月物語』のみ再読。解説によれば『無月物語』はスタンダールの作品を下敷きにしているらしい。2015/10/05
藤月はな(灯れ松明の火)
37
「黄泉から」はこの世でない者へ手を差し伸べるラストがロマンチックで印象的でした。「母子像」にも思春期特有の独りよがりな母への過度の美化と偶像が地に落ちた時の絶望、他人の勝手な分析を心根では否定するという描写は流石としか言いようがありません。久生十蘭作品は「キャラコさん」しか読んでいなかったので短編も読めてよかったです^^2011/10/02