内容説明
現役の作家のなかにも熱狂的なファンの少なくない、鬼才、久生十蘭の精粋を、おもに戦後に発表された短篇から厳選。世界短篇小説コンクールで第一席を獲得した「母子像」、幻想性豊かな「黄泉から」、戦争の記憶が鮮明な「蝶の絵」「復活祭」など、巧緻な構成と密度の高さが鮮烈な印象を残す全15篇。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
まこみや
93
何かのアンソロジーで短編を一つ二つ読んだことがあったけれど、まとまって読むのは初めてだった。不覚でした。久生十蘭という作家の位置をすっかり見直した。いわば、芥川の後継者の見立てである。特に瞠目に値するのは、作品に応じて自在に使い分ける縷縷彫琢された文体の魔とでもいうべき表現力だ。選ばれた玄人筋の愛読者をジュラ二アンと称するのも宜なるかな。鬼才という言葉こそふさわしい。小生にとってはまだまだ未読の作品が多くあるので、老後の楽しみが増えました。2024/04/21
ずっきん
47
初っぱなの「黄泉から」でいきなり陶然となり、これはイカンとゆっくりとご褒美のように一篇一篇を読み進めていった。なんでこんなに好きなのかうまく説明できない。物語がいきなりぐっと近づいてくる瞬間が好き。一見からりとした文章は、行間を読ませるということがなく、ただ十蘭の言葉通りに思い描いて物語に沈むだけで幸せになれる。「黄泉から」「蝶の絵」「春雪」は、ダントツに好き。あっ、と思った時には鷲掴みにされていた。「無月物語」と「春の山」「白雪姫」は描写に酔っぱらう。解説は難解すぎたが、十蘭愛はひしひし伝わってきた。2018/03/05
安南
39
チェンチ一族の悲劇を中世日本に置き換えた『無月物語』のみ再読。解説によれば『無月物語』はスタンダールの作品を下敷きにしているらしい。2015/10/05
藤月はな(灯れ松明の火)
37
「黄泉から」はこの世でない者へ手を差し伸べるラストがロマンチックで印象的でした。「母子像」にも思春期特有の独りよがりな母への過度の美化と偶像が地に落ちた時の絶望、他人の勝手な分析を心根では否定するという描写は流石としか言いようがありません。久生十蘭作品は「キャラコさん」しか読んでいなかったので短編も読めてよかったです^^2011/10/02
ネムル
34
再読、一番好きな短編集。いきなり「黄泉から」「予言」と大傑作が並ぶせいで、後半忘れてる話も多かったが、それにしても手を替え品を替え、同じ話を繰り返し描き続けるものだ。日本と異郷(欧米・南方)、此方と彼方(異境)の越境とワンチャンの哀切と憂愁。また戦後の虚無を描くに、これほど簡潔にして色気ある文章もあるまい。今回の再読ではグレアム・グリーン並みに上手い「蝶の絵」や、「白雪姫」「春雪」「復活祭」「無月物語」が印象的だった(しかし、戦後の胡散臭い虚無キャラが出てくると、どれも池部良で脳内変換されて困る)。2020/05/21