出版社内容情報
京の遊女の誓いをいちずに信じ,東京から数年間にわたって苦しい送金をしたが,ついに女に裏切られた主人公の愛執の情を描いた情痴小説「黒髪」,他2篇を収める.人間の偽らざる姿をありのままに描くことによって,文学的リアリティに到達したいと願った秋江は,生粋の私小説作家として独自の地位を占める.解説=正宗白鳥
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
メタボン
24
☆☆☆☆ 痴情小説とは良くも言った正宗白鳥!最終篇「霜凍る宵」では、ついに心も凍る真実を茶屋の女将から告げられる。「私はそれよりも自分の目前の境遇の方が遥かに憐れであった」。もっと早く気づけよ、そして手を引けよ。それが出来ないのが、盲目の恋なのだろうな。京女の薄情さ、お園の強かさと、振り回される男の不甲斐なさが際立つ。文章も情緒があり、思いのほかに面白かった。2022/03/26
阿呆った(旧・ことうら)
20
遊女に入れあげた主人公の視野の狭さがストーカーレベルで、未練、妄想、執念が半端じゃない。これは作者の実体験だそうで、半分私小説ですね。2015/11/26
ぶうたん
5
偏執的な恋情を描いたサイコな連作。現在の目から見ると犯罪的な行為も多くて、私小説というのが戦慄させられるのだが、もしかすると昔は悲しい片思いの小説と思われていたのだろうか。時代によって物の見方が変わるので、気になるところだ。それはともかく、これだけ好き勝手なことをやって、主人公は何で収入を得ているのか、謎ではある。2023/06/21
法水
4
トヨザキ社長の『まるでダメ男じゃん!』で紹介されていた私小説的連作。いや確かに主人公はダメ男なんだけど、惚れた女会いたさに女の母親に教えられるがままに山科や南山城に遠路はるばる出かけていく馬鹿さ加減に憐憫の情さえ感じてしまった。それでも女の居場所をつきとめるも母親に冷たくあしらわれ、「潜戸をどんどん打ち叩いて、「今晩は今晩は今晩は今晩は」とやけに呼んだ」というあたりはもはや手の施しようなしではあるけど…。しかし、こんなことまで小説にするとは商魂たくましいというか何というか。2016/09/24
瓜坊
3
苦界の女は最も弱い者である。だから男が情けをかけて男に頼らなければならない。なんて独善的な発想で女を捉えると男は自滅する。「苦界に身を落とす」という言葉自体が愚かなのか。生きる強さにおいて男女は関係ない。むしろ男の方が遥かに弱いかもしれない。なぜなら主人公が異常だと解っていても、その苦悩をあながち否定できないからだ。女の母も逞しい。彼女たち二人を上から目線で相手にできるわけがない。男女の立場の入れ替わり、男の弱さの露呈が最後の最後まで徹底している。
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