出版社内容情報
ひっこみ思案で気のいいホビット小人が,思いがけない旅に出る雄大な冒険物語.魔法使いガンダルフのたくみな誘いにのせられ,13人のドワーフとともに旅立ったビルボは,けわしい山々や闇の森を越え,竜に奪われた宝を取り返しにゆく.古代北欧の伝承の影響を色濃く残すファンタジー.〔解説・斎藤惇夫〕
内容説明
魔法の指輪を手に入れたビルボとその一行は、やみの森をぬけ、囚われた岩屋からもなんとか脱出に成功。ビルボたちは、いよいよ恐ろしい竜スマウグに命がけの戦いを挑みます。『指輪物語』の原点といわれる、雄大な空想物語。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
418
後年に書かれた『指輪物語』のようにタイトルにこそ謳われてはいないが、本書の基底にはゲルマン神話『ニーベルンゲンの指輪』が横たわる。ことに言えば「ジークフリート」がそうだ。もっとも、ここでは肝腎の指輪の働きは「隠れ兜」の働きしかしてはいない。鳥(ツグミ)に導かれるところや、スマウグ(竜)の唯一の欠点など、「ジークフリート」との相通性を挙げていけばキリがないくらいだ。ただ、竜を倒したあたりからは、トールキンの人間観と価値観の独自性が見受けられるように思う。宝をめぐるビルボの態度や、帰郷後の処遇にそれが顕著だ。2018/09/16
ケイ
130
ホビットというより、ドワーフ達の物語かもしれない。やたらめったらたくさんいるので、最初は紙に書いて整理していたが、そのうちに慣れてきて、特徴のある性格のものはもう顔が頭に浮かぶよう。そんな彼らと、あくまでものんびり気質のホビットと達が次第に団結し竜と対峙するところで、なぜか村上春樹の主人公たちが重なった。その辺りからの展開は、また予想外だったが…。最後は少ししんみりしながらもほっこりと。私もお茶にまぜて欲しいものだ。さあ、次は指輪物語へ。2017/06/29
ひろき@巨人の肩
120
英ガーディアン紙必読小説1000冊に選ばれた児童用ファンタジー古典。子供の時に読んでいたら人生変わりそうと思うほど面白い。予想を遥かに上回るスケール感で想定外の方向にストーリーが展開される。抑止力による世界の均衡、人類の欲望や大戦時の無力感など、現代社会のメタファーとして中つ国が描かれている。勿論、ファンタジーとしても、ビルボの成長、トーリンとの別れ、ドラゴンとの戦いなど「友情・努力・勝利」の王道少年誌の要素も盛り込んだ完成された名著。2019/12/14
藤月はな(灯れ松明の火)
88
映画でのベネディクト・カンバーバッチが顔造形モデルとなったスマウグの呆気なさすぎる最期、バルドさんの苦労人ぶりは原作に忠実だったのですね・・・。財宝を手に入れてからのトーリンは完全に莫迦者でした。財宝を休む間もなく、整理するドワーフ達に「幾ら、富があってもお腹を満たす物がなければ、人は動けないのに・・・」と思わずにいられませんでした。平和を望んだビルボがやったことは逆に事態を混乱させていたということやその途中で起こった悲劇は遣る瀬無さすぎる。それでも最後に冒険の日々を懐かしく、振り返るビルボにホッとします2016/12/09
アナーキー靴下
82
上巻は、段々面白くなってきたし、最後まで読みきることができそうで一安心、が正直な感想だったのに、下巻を読み終えてみると、壮大さに圧倒され、心が締め付けられる、素晴らしい作品だった。何よりさほど心に響いていなかった上巻の出来事一つ一つが、後になって、すべて大切な、示唆的なことだったように思えてくる。エピソードそれぞれに登場人物個々の性格が表れ、さらにそれは種族的な特徴を思わせるが、まるで計算され尽くしたかのような配置が、奥行きある世界観に繋がり、一大叙事詩を作り上げている。生物の調和と死者への敬意が印象的。2021/05/30