内容説明
夢野久作の代表作にして日本幻想小説史上の傑作として名高い『ドグラ・マグラ』。時間的錯綜と奇怪な矛盾とをはらんだ入れ子構造ゆえに、難解きわまりないとされるその作品世界を、現実に対峙するための異界の構築という観点から精緻に読み解くことで、“幻想”や“土着性”といった従来の枠組みに還元されない、斬新な作家像を呈示する。
目次
第１章 『ドグラ・マグラ』の世界（どう読むか；私は誰？―主題化する過去 ほか）
第２章 父・杉山茂丸―“もののあわれ”の伝統（国士から政界の黒幕へ―その天皇論とニヒリズム；美学としての武士道―死所を得られなかった男 ほか）
第３章 『白髪小僧』を読む―空間的異界をめぐって（分身たちの王国―反世界の措定；脱臼する世界―「本当の事」と「お話」と ほか）
第４章 もののあわれ・異界・ナショナリズム（『ドグラ・マグラ』の出口―読者が完成する作品；夢野久作のナショナリズム―“良心”の落とし穴 ほか）
著者等紹介
百川敬仁［モモカワタカヒト］
１９４８年生まれ。東京大学文学部卒。国文学研究資料館助教授を経て、明治大学法学部教授
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感想・レビュー
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2
右翼の大物であった父杉山茂丸との関係から夢野久作の作品を分析してゆくのは、山本巖『夢野久作の場所』と同じだが、そこからより突っ込んだ分析がなされているように感じた（後半の、ナショナリズム論、あるいは「共同体」論）だとすると、やはり茂丸の影響を考えながら作品を読解するしかないのかと思う反面にそれ以外から読解ができないものかとも思うのだけれども（例えば『ドグラマグラ』の舞台になる精神病院の位置https://www.med.kyushu-u.ac.jp/psychiatry/cn20/pg132.html）2016/10/11
fantamys
1
溶けるアイデンティテイをつなぎ止めるために掲げた「日本人」という意識こそ、共同性が生み出した異界に他ならない、ということか…2023/05/22
たんかともま
1
俺は俺だ、と言い切れない埴谷雄高の『死霊』と双生児のような印象で読んでいた夢野久作の『ドグラ・マグラ』。父と子という観点から順を追って時系列を紐解き、二人の教授の共犯的なすりつけ合い、母が正木に抱いた希望、主人公と正木の会話の微妙な違和感であるところの正木が言ったことを嘘と言ったり突然怒ったりする場面に解説が入るため、すっきりした。作者の父を解き明かすことで父との対立という部分も見えてきたし、白髪小僧のおかげで異界、ドクラ・マグラでいうところの過去との和解小説とも読めるようになった。良心対学問も、面白い。2021/02/07
磊落のい
0
柱時計の音とともに主人公の幻覚が永遠に反復し続ける救いのない悪循環のような「ドグラ・マグラ」の世界は…主人公を時間の迷宮から脱出させる多恵の方法を読者が考える余地が残されている。ただし、それには読者自身が心理遺伝に支配された世界と対決する必要がある。正木博士が冗談めかして主人公に示したあの「宣言」ー「思い切って今のうちに心理遺伝から超越しちまえ。ホントウに解放された青天井の人間になれ」に読者自身が賛同しなければならない。194p2017/05/02
おちこち
0
奇書『ドグラ・マグラ』および未完の童話『白髪小僧』を「異界」というキーワードで読み解く。複雑な構造を持つ作品をたんねんに読み取るのはよかったが、いまいち筆者の論がぼんやりとしてわかりにくかった。父親の杉山茂丸の紹介や久作のナショナリズムを論じているところが特に興味深かった。2012/05/22
