出版社内容情報
人類は定住する以前から移動しながら生きてきた。その長い営みの中から遊牧という文化は生まれてきた。にもかかわらず、人類の歴史において遊牧文化はどこか傍流として位置付けられてきた。遊牧民の生活様式そのものを凝視する著者の研究は、遊牧の起源と、その生態の隠れた体系性を明らかにし、人類史的な意味を考察する。
内容説明
遊牧民と共に暮らし生きる。だからこそ見えてきた遊牧文化の歴史と現代、未来。世界的にも例のないフィールドワークと考察の集大成。
目次
第1章 遊牧研究への道(遊牧とは;遊牧という言葉 ほか)
第2章 現生人類史のなかで(狩猟採集の時代;現生人類の誕生 ほか)
第3章 遊牧の骨格(放牧の風景;夜間放牧の背景 ほか)
第4章 遊牧の起源(放牧の原風景;野生動物群との共生 ほか)
第5章 遊牧の展開(遊牧の核心;遊牧の資源活用 ほか)
著者等紹介
松原正毅[マツバラマサタケ]
1942年広島市生まれ、松山市育ち。国立民族学博物館名誉教授、総合研究大学院大学名誉教授。専攻は遊牧社会論、社会人類学。京都大学大学院文学研究科修士課程修了。国立民族学博物館教授、同館地域研究企画交流センター長、坂の上の雲ミュージアム館長などを歴任(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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サアベドラ
37
西アジアや中央アジアの遊牧民を長年研究してきた人類学者が、自身のフィールドワークの成果などを元に遊牧文化の起源と歴史上の展開を考察した本。2021年刊。難しい理論的な話は少なく、一部専門的な部分もあるが全体としては一般読者でも読みやすい内容。歴史学の観点からすると、ユーラシアの遊牧民は近世までの卓越した軍事力と東西への文化伝達力に焦点が当たることが多いと思うが、人類学的に見ると、その本質は自然動物との共生と利用であり、騎馬による軍事力と機動力はその副産物であることが本書を読むとよく分かる。遊牧の基礎文献。2022/04/20
さとうしん
11
著者の研究の総決算的な書。『遊牧の世界』と内容的に重なる部分が多い。牧畜、農耕より遊牧が先行する、乗馬の技術の起源は子供の遊びからといった議論が刺激的。2021/08/30
MUNEKAZ
10
遊牧とは何か。それは自然との共生。ということで、著者の長年のフィールドワークから、遊牧民の生活とその起源を探っている。家畜は追い立てられるのではなく、自律的に移動をし、牧人はその随伴者である。管理するのではなく、共に生活をするという姿は、牧畜との違いを際立たせる部分か。著者は自身の観察と経験より、遊牧が農耕や牧畜に先立つ形態だと指摘する。この辺りはゲノム解析などで、学際的な展開も期待したいところ。また遊牧の対極に、土地の私有化があるというのも興味深い。自然と共に生きる彼らにとって、移動の制限は死活問題だ。2024/05/29
takao
3
ふむ2023/05/30
メイジトップ
1
考古的遺物を初め、痕跡をほとんど残さない遊牧民の過去の姿を映し出すのは困難。そう断った上で書かれた本であり詳細なのは民族誌部分だけで、概観部分は苦しそうに書いた印象を受けた。成長過程ごとに総称が遷移していく様や、近代化に抵抗して生まれた現代の遊牧と19世紀以前のそれとで形態が大きく異なることなど、断片的な要素から数千年前の遊牧の形を推測する。それは女性や子供の寄与が大きく、動物の生活模様に人類の方が合わせていた、狩りや搾取の形をとらない共生であったという。2025/04/15