内容説明
前世紀を上回る暴力と殺戮の予感に満ちた21世紀。私たちは犠牲者をいかに弔い、どういう距離感で状況をとらえればよいのか。著者は、現代の圧倒的な視覚文化やバーチャリティの問題と暴力とを、プリズムのように互いを通し「屈折」させて映し出す。ベンヤミン、アドルノから9.11まで、高名な思想史家が該博な知識と豊かな論理で展開する、刺激に満ちた一冊。
目次
慰めはいらない―ベンヤミンと弔いの拒否
父と子―ヤン・フィリップ・レームツマとフランクフルト学派
ホロコーストはいつ終わったのか?―歴史的客観性について
恩知らずの死者たち
バラの回心
ユニコーン殺人犯との文通
正義は盲目でなくてはならないのか?―法とイメージの挑戦
難破船へ潜る―世紀末の美的スペクタクル見物
天文学的な事後見分―光の速度と現実のバーチャル化
光州―虐殺からビエンナーレへ
宗教的暴力の逆説
恐怖のシンメトリー―九・一一と左翼の苦悩
著者等紹介
谷徹[タニトオル]
1985年慶応義塾大学大学院文学研究科哲学専攻博士課程単位取得退学。現在立命館大学文学部教授
谷優[タニユウ]
1986年慶応義塾大学大学院文学研究科哲学専攻博士課程単位取得退学。現在翻訳家
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ルートビッチ先輩
1
視覚が特権的な感覚となってきたのが近代という時代なのだとすれば、その特権は構築されたものであり、どのようにそう考えられてきたのか、という考察が必要だ。「天文学的な事後見分」や「正義は盲目でなくてはならないのか?」といった考察は半ばでそういった役割を果たす。その特権は同時性や直接性としてしばしば使われるが、決して視覚は実際にそうなのではないのだ、と。ゆえに、本書は視覚を以てまとめあげていくような弁証法(記念碑による追悼、ホロコーストの終焉)を拒否し、否定弁証法として個を集団に回収しない方策を提起する。2015/07/09
うえ
1
「皮肉なことだが,この新しい不寛容の誕生は…法務省が市民的自由を制限したことと併せて,左翼を窮地から救う結果となった。すくなくとも,左翼は道徳的正義の立場をもう一度装うことができるようになった。伝統的にはラディカルであるというよりむしろリベラルな価値とされる,反対意見の表明や市民的自由の大義を掲げることで,それまで左翼がグローバル化に対抗する手段として転覆,逸脱,妨害といったレトリックに頼りがちだったという厄介な問題を,伏せたり忘れたりすることができるようになった」2014/06/18
Rei Kagitani
0
暴力のもつ視覚的な側面をアレゴリカルに論じている。9章の天体写真における時間と視覚の関係性は個人的に関心のあるテーマだった。光の速度によって視覚が歪められるということ。11章、12章の宗教と暴力にまつわる議論は現在のイスラム過激派の問題にもつながる重要な議論だろう。2014/10/24